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マルコ傳
🔝
〘67㌻〙
第1章
1
神
かみ
の《[*]》
子
こ
イエス・キリストの
福音󠄃
ふくいん
の
始
はじめ
[*異本「神の子」なし。]。
2
預言者
よげんしゃ
イザヤの
書
ふみ
に、 『
視
み
よ、
我
われ
なんぢの
顏
かほ
の
前󠄃
まへ
に、わが
使
つかひ
を
遣󠄃
つかは
す、
彼
かれ
なんぢの
道󠄃
みち
を
設
まう
くべし。
3
荒野
あらの
に
呼
よば
はる
者
もの
の
聲
こゑ
す 「
主
しゅ
の
道󠄃
みち
を
備
そな
へ、その
路
みち
すぢを
直
なほ
くせよ」』と
錄
しる
されたる
如
ごと
く、
4
バプテスマのヨハネ
出
い
で、
荒野
あらの
にて
罪
つみ
の
赦
ゆるし
を
得
え
さする
悔改
くいあらため
のバプテスマを
宣傳
のべつた
ふ。
5
ユダヤ
全󠄃國
ぜんこく
またエルサレムの
人々
ひとびと
、みな
其
そ
の
許
もと
に
出
い
で
來
きた
りて
罪
つみ
を
言
い
ひあらはし、ヨルダン
川
がは
にてバプテスマを
受
う
けたり。
6
ヨハネは
駱駝
らくだ
の
毛織
けおり
を
著
き
、
腰
こし
に
皮
かは
の
帶
おび
して、
蝗
いなご
と
野蜜
のみつ
とを
食󠄃
くら
へり。
7
かれ
宣傳
のべつた
へて
言
い
ふ『
我
われ
よりも
力
ちから
ある
者
もの
、わが
後
のち
に
來
きた
る。
我
われ
は
屈
かゞ
みて、その
鞋
くつ
の
紐
ひも
をとくにも
足
た
らず、
8
我
われ
は
水
みづ
にて
汝
なんぢ
らにバプテスマを
施
ほどこ
せり。されど
彼
かれ
は
聖󠄄
せい
靈
れい
にてバプテスマを
施
ほどこ
さん』
9
その
頃
ころ
イエス、ガリラヤのナザレより
來
きた
り、ヨルダンにてヨハネよりバプテスマを
受
う
け
給
たま
ふ。
10
斯
かく
て
水
みづ
より
上
あが
るをりしも、
天
てん
さけゆき、
御靈
みたま
、
鴿
はと
のごとく
己
おのれ
に
降
くだ
るを
見
み
給
たま
ふ。
11
かつ
天
てん
より
聲
こゑ
出
い
づ『なんぢは
我
わ
が
愛
いつく
しむ
子
こ
なり、
我
われ
なんぢを
悅
よろこ
ぶ』
12
斯
かく
て
御靈
みたま
ただちにイエスを
荒野
あらの
に
逐󠄃
お
ひやる。
13
荒野
あらの
にて
四十
しじふ
日
にち
の
間
あひだ
サタンに
試
こゝろ
みられ、
獸
けもの
とともに
居給
ゐたま
ふ、
御使
みつかひ
たち
之
これ
に
事
つか
へぬ。
14
ヨハネの
囚
とら
はれし
後
のち
、イエス、ガリラヤに
到
いた
り、
神
かみ
の
福音󠄃
ふくいん
を
宣傳
のべつた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ、
15
『
時
とき
は
滿
み
てり、
神
かみ
の
國
くに
は
近󠄃
ちか
づけり、
汝
なんぢ
ら
悔改
くいあらた
めて
福音󠄃
ふくいん
を
信
しん
ぜよ』
67㌻
16
イエス、ガリラヤの
海
うみ
にそひて
步
あゆ
みゆき、シモンと
其
そ
の
兄弟
きゃうだい
アンデレとが、
海
うみ
に
網
あみ
打
う
ちをるを
見
み
給
たま
ふ。かれらは
漁人
すなどりびと
なり。
17
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『われに
從
したが
ひきたれ、
汝
なんぢ
等
ら
をして
人
ひと
を
漁
すなど
る
者
もの
とならしめん』
18
彼
かれ
ら
直
たゞ
ちに
網
あみ
をすてて
從
したが
へり。
19
少
すこ
し
進󠄃
すゝ
みゆきて、ゼベダイの
子
こ
ヤコブとその
兄弟
きゃうだい
ヨハネとを
見
み
給
たま
ふ、
彼
かれ
らも
舟
ふね
にありて
網
あみ
を
繕
つくろ
ひゐたり。
20
直
ただ
ちに
呼
よ
び
給
たま
へば、
父󠄃
ちち
ゼベダイを
雇人
やとひびと
とともに
舟
ふね
に
遺󠄃
のこ
して
從
したが
ひゆけり。
21
斯
かく
て
彼
かれ
らカペナウムに
到
いた
る、イエス
直
たゞ
ちに
安息
あんそく
日
にち
に
會堂
くわいだう
にいりて
敎
をし
へ
給
たま
ふ。
22
人々
ひとびと
その
敎
をしへ
に
驚
をどろ
きあへり。それは
學者
がくしゃ
の
如
ごと
くならず、
權威
けんゐ
ある
者
もの
のごとく
敎
をし
へ
給
たま
ふゆゑなり。
23
時
とき
にその
會堂
くわいだう
に、
穢
けが
れし
靈
れい
に
憑
つ
かれたる
人
ひと
あり、
叫
さけ
びて
言
い
ふ
〘49㌻〙
24
『ナザレのイエスよ、
我
われ
らは
汝
なんぢ
と
何
なに
の
關係
かゝはり
あらんや、
汝
なんぢ
は
我
われ
らを
亡
ほろぼ
さんとて
來給
きたま
ふ。われは
汝
なんぢ
の
誰
たれ
なるを
知
し
る、
神
かみ
の
聖󠄄者
しゃうじゃ
なり』
25
イエス
禁
いまし
めて
言
い
ひ
給
たま
ふ『
默
もだ
せ、その
人
ひと
を
出
い
でよ』
26
穢
けが
れし
靈
れい
、その
人
ひと
を
痙攣
ひきつ
けさせ、
大聲
おほごゑ
をあげて
出
い
づ。
27
人々
ひとびと
みな
驚
をどろ
き
相
あひ
問
と
ひて
言
い
ふ『これ
何事
なにごと
ぞ、
權威
けんゐ
ある
新
あたら
しき
敎
をしへ
なるかな、
穢
けが
れし
靈
れい
すら
命
めい
ずれば
從
したが
ふ』
28
爰
こゝ
にイエスの
噂
うはさ
あまねくガリラヤの
四方
しはう
に
弘
ひろま
りたり。
29
會堂
くわいだう
をいで、
直
たゞ
ちにヤコブとヨハネとを
伴󠄃
ともな
ひて、シモン
及
およ
びアンデレの
家
いへ
に
入
い
り
給
たま
ふ。
30
シモンの
外姑
しうとめ
、
熱
ねつ
をやみて
臥
ふ
しゐたれば、
人々
ひとびと
ただちに
之
これ
をイエスに
吿
つ
ぐ。
31
イエス
徃
ゆ
きて、その
手
て
をとり、
起󠄃
おこ
し
給
たま
へば、
熱
ねつ
さりて
女
をんな
かれらに
事
つか
ふ。
32
夕
ゆふべ
となり、
日
ひ
いりてのち
人々
ひとびと
すべての
病
やまひ
ある
者
もの
・
惡鬼
あくき
に
憑
つ
かれたる
者
もの
をイエスに
連
つ
れ
來
きた
り、
33
全󠄃町
ひとまち
こぞりて
門
もん
に
集
あつま
る。
68㌻
34
イエスさまざまの
病
やまひ
を
患
わづら
ふ
多
おほ
くの
人
ひと
をいやし、
多
おほ
くの
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひいだし
之
これ
に
物
もの
言
い
ふことを
免
ゆる
し
給
たま
はず、
惡鬼
あくき
イエスを
知
し
るに
因
よ
りてなり。
35
朝󠄃
あさ
まだき
暗󠄃
くら
き
程
ほど
に、イエス
起󠄃
お
き
出
い
でて、
寂
さび
しき
處
ところ
にゆき、
其處
そこ
にて
祈
いの
りゐたまふ。
36
シモン
及
およ
び
之
これ
と
偕
とも
にをる
者
もの
ども、その
跡
あと
を
慕
した
ひゆき、
37
イエスに
遇󠄃
あ
ひて
言
い
ふ『
人
ひと
みな
汝
なんぢ
を
尋󠄃
たづ
ぬ』
38
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『いざ
最寄
もより
の
村々
むらむら
に
徃
ゆ
かん、われ
彼處
かしこ
にも
敎
をしへ
を
宣
の
ぶべし、
我
われ
はこの
爲
ため
に
出
い
で
來
きた
りしなり』
39
遂󠄅
つひ
にゆきて、
徧
あまね
くガリラヤの
會堂
くわいだう
にて
敎
をしへ
を
宣
の
べ、かつ
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
し
給
たま
へり。
40
一人
ひとり
の
癩病人
らいびゃうにん
、みもとに
來
きた
り、
跪
ひざま
づき
請󠄃
こ
ひて
言
い
ふ『
御意󠄃
みこゝろ
ならば
我
われ
を
潔󠄄
きよ
くなし
給
たま
ふを
得
え
ん』
41
イエス
憫
あはれ
みて、
手
て
をのべ
彼
かれ
につけて『わが
意󠄃
こゝろ
なり、
潔󠄄
きよ
くなれ』と
言
い
ひ
給
たま
へば、
42
直
たゞ
ちに
癩病
らいびゃう
さりて、その
人
ひと
きよまれり。
43
頓
やが
て
彼
かれ
を
去
さ
らしめんとて、
嚴
きび
しく
戒
いまし
めて
言
い
ひ
給
たま
ふ
44
『つつしみて
誰
たれ
にも
語
かた
るな、
唯
たゞ
ゆきて
己
おのれ
を
祭司
さいし
に
見
み
せ、モーセが
命
めい
じたる
物
もの
を
汝
なんぢ
の
潔󠄄
きよめ
のために
獻
さゝ
げて、
人々
ひとびと
に
證
あかし
せよ』
45
されど
彼
かれ
いでて
此
こ
の
事
こと
を
大
おほい
に
述󠄃
の
べつたへ、
徧
あまね
く
弘
ひろ
め
始
はじ
めたれば、この
後
のち
イエスあらはに
町
まち
に
入
い
りがたく、
外
そと
の
寂
さび
しき
處
ところ
に
留
とゞま
りたまふ。
人々
ひとびと
、
四方
しはう
より
御許
みもと
に
來
きた
れり。
第2章
1
數日
すにち
の
後
のち
、またカペナウムに
入
い
り
給
たま
ひしに、その
家
いへ
に
在
いま
することを
聞
き
きて、
2
多
おほ
くの
人
ひと
あつまり
來
きた
り、
門口
かどぐち
すら
隙間
すきま
なき
程
ほど
なり。イエス
彼
かれ
らに
御言
みことば
を
語
かた
り
給
たま
ふ。
〘50㌻〙
3
ここに
四人
よにん
に
擔
にな
はれたる
中風
ちゅうぶ
の
者
もの
を
人々
ひとびと
つれ
來
きた
る。
4
群衆
ぐんじゅう
によりて
御許
みもと
にゆくこと
能
あた
はざれば、
在
いま
す
所󠄃
ところ
の
屋根
やね
を
穿
うが
ちあけて、
中風
ちゅうぶ
の
者
もの
を
床
とこ
のまま
縋
つ
り
下
おろ
せり。
69㌻
5
イエス
彼
かれ
らの
信仰
しんかう
を
見
み
て、
中風
ちゅうぶ
の
者
もの
に
言
い
ひたまふ『
子
こ
よ、
汝
なんぢ
の
罪
つみ
ゆるされたり』
6
ある
學者
がくしゃ
たち
其處
そこ
に
坐
ざ
しゐたるが、
心
こゝろ
の
中
うち
に、
7
『この
人
ひと
なんぞ
斯
か
く
言
い
ふか、これは
神
かみ
を
瀆
けが
すなり、
神
かみ
ひとりの
外
ほか
は
誰
たれ
か
罪
つみ
を
赦
ゆる
すことを
得
う
べき』と
論
ろん
ぜしかば、
8
イエス
直
たゞ
ちに
彼
かれ
等
ら
がかく
論
ろん
ずるを
心
こゝろ
に
悟
さと
りて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なにゆゑ
斯
かゝ
ることを
心
こゝろ
に
論
ろん
ずるか、
9
中風
ちゅうぶ
の
者
もの
に「なんぢの
罪
つみ
ゆるされたり」と
言
い
ふと「
起󠄃
お
きよ、
床
とこ
をとりて
步
あゆ
め」と
言
い
ふと、
孰
いづれ
か
易
やす
き。
10
人
ひと
の
子
こ
の
地
ち
にて
罪
つみ
を
赦
ゆる
す
權威
けんゐ
ある
事
こと
を、
汝
なんぢ
らに
知
し
らせん
爲
ため
に』――
中風
ちゅうぶ
の
者
もの
に
言
い
ひ
給
たま
ふ――
11
『なんぢに
吿
つ
ぐ、
起󠄃
お
きよ、
床
とこ
をとりて
家
いへ
に
歸
かへ
れ』
12
彼
かれ
おきて
直
たゞ
ちに
床
とこ
をとりあげ、
人々
ひとびと
の
眼前󠄃
まのあたり
いで
徃
ゆ
けば、
皆
みな
おどろき、かつ
神
かみ
を
崇
あが
めて
言
い
ふ『われら
斯
かく
の
如
ごと
きことは
斷
た
えて
見
み
ざりき』
13
イエスまた
海邊
うみべ
に
出
い
でゆき
給
たま
ひしに、
群衆
ぐんじゅう
みもとに
集
つど
ひ
來
きた
りたれば、
之
これ
を
敎
をし
へ
給
たま
へり。
14
斯
かく
て
過󠄃
す
ぎ
徃
ゆ
くとき、アルパヨの
子
こ
レビの、
收税所󠄃
しうぜいしょ
に
坐
ざ
しをるを
見
み
て『われに
從
したが
へ』と
言
い
ひ
給
たま
へば、
立
た
ちて
從
したが
へり。
15
而
しか
して
其
そ
の
家
いへ
にて
食󠄃事
しょくじ
の
席
せき
につき
居給
ゐたま
ふとき、
多
おほ
くの
取税人
しゅぜいにん
・
罪人
つみびと
ら、イエス
及
およ
び
弟子
でし
たちと
共
とも
に
席
せき
に
列
つらな
る、これらの
者
もの
おほく
居
ゐ
て、イエスに
從
したが
へるなり。
16
パリサイ
人
びと
の
學者
がくしゃ
ら、イエスの
罪人
つみびと
・
取税人
しゅぜいにん
とともに
食󠄃
しょく
し
給
たま
ふを
見
み
て、その
弟子
でし
たちに
言
い
ふ『なにゆゑ
取税人
しゅぜいにん
・
罪人
つみびと
とともに
食󠄃
しょく
するか』
17
イエス
聞
き
きて
言
い
ひ
給
たま
ふ『
健
すこや
かなる
者
もの
は、
醫者
いしゃ
を
要󠄃
えう
せず、ただ
病
やまひ
ある
者
もの
、これを
要󠄃
えう
す。
我
われ
は
正
たゞ
しき
者
もの
を
招
まね
かんとにあらで、
罪人
つみびと
を
招
まね
かんとて
來
きた
れり』
18
ヨハネの
弟子
でし
とパリサイ
人
びと
とは、
斷食󠄃
だんじき
しゐたり。
人々
ひとびと
イエスに
來
きた
りて
言
い
ふ『なにゆゑヨハネの
弟子
でし
とパリサイ
人
びと
の
弟子
でし
とは
斷食󠄃
だんじき
して、
汝
なんぢ
の
弟子
でし
は
斷食󠄃
だんじき
せぬか』
19
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『
新郎
はなむこ
の
友
とも
だち、
新郎
はなむこ
と
偕
とも
にをるうちは
斷食󠄃
だんじき
し
得
う
べきか、
新郎
はなむこ
と
偕
とも
にをる
間
あひだ
は、
斷食󠄃
だんじき
するを
得
え
ず。
70㌻
20
然
さ
れど
新郎
はなむこ
をとらるる
日
ひ
きたらん、その
日
ひ
には
斷食󠄃
だんじき
せん。
21
誰
たれ
も
新
あたら
しき
布
ぬの
の
裂
きれ
を
舊
ふる
き
衣
ころも
に
縫󠄃
ぬ
ひつくることは
爲
せ
じ。もし
然
しか
せば、その
補
おぎな
ひたる
新
あたら
しきものは、
舊
ふる
き
物
もの
をやぶり、
破綻
ほころび
さらに
甚
はなは
だしからん。
22
誰
たれ
も
新
あたら
しき
葡萄酒
ぶだうしゅ
を、ふるき
革嚢
かはぶくろ
に
入
い
るることは
爲
せ
じ。もし
然
しか
せば、
葡萄酒
ぶだうしゅ
は
嚢
ふくろ
をはりさきて、
葡萄酒
ぶだうしゅ
も
嚢
ふくろ
も
廢
すた
らん。
新
あたら
しき
葡萄酒
ぶだうしゅ
は、
新
あたら
しき
革嚢
かはぶくろ
に
入
い
るるなり』
〘51㌻〙
23
イエス
安息
あんそく
日
にち
に
麥
むぎ
畠
はたけ
をとほり
給
たま
ひしに、
弟子
でし
たち
步
あゆ
みつつ
穗
ほ
を
摘
つ
み
始
はじ
めたれば、
24
パリサイ
人
びと
、イエスに
言
い
ふ『
視
み
よ、
彼
かれ
らは
何
なに
ゆゑ
安息
あんそく
日
にち
に
爲
す
まじき
事
こと
をするか』
25
答
こた
へ
給
たま
ふ『ダビデその
伴󠄃
ともな
へる
人々
ひとびと
と
共
とも
に
乏
とも
しくして
飢󠄄
う
ゑしとき
爲
な
しし
事
こと
を
未
いま
だ
讀
よ
まぬか。
26
即
すなは
ち
大
だい
祭司
さいし
アビアタルの
時
とき
、ダビデ
神
かみ
の
家
いへ
に
入
い
りて、
祭司
さいし
のほかは
食󠄃
くら
ふまじき
供
そなへ
のパンを
取
と
りて
食󠄃
くら
ひ、おのれと
偕
とも
なる
者
もの
にも
與
あた
へたり』
27
また
言
い
ひたまふ『
安息
あんそく
日
にち
は
人
ひと
のために
設
まう
けられて、
人
ひと
は
安息
あんそく
日
にち
のために
設
まう
けられず。
28
然
さ
れば
人
ひと
の
子
こ
は
安息
あんそく
日
にち
にも
主
しゅ
たるなり』
第3章
1
また
會堂
くわいだう
に
入
い
り
給
たま
ひしに、
片手
かたて
なえたる
人
ひと
あり。
2
人々
ひとびと
イエスを
訴
うった
へんと
思
おも
ひて、
安息
あんそく
日
にち
にかの
人
ひと
を
醫
いや
すや
否
いな
やと
窺
うかゞ
ふ。
3
イエス
手
て
なえたる
人
ひと
に『
中
なか
に
立
た
て』といひ、
4
また
人々
ひとびと
に
言
い
ひたまふ『
安息
あんそく
日
にち
に
善
ぜん
をなすと
惡
あく
をなすと、
生命
いのち
を
救
すく
ふと
殺
ころ
すと、
孰
いづれ
かよき』
彼
かれ
ら
默然
もくねん
たり。
5
イエスその
心
こゝろ
の
頑固
かたくな
なるを
憂
うれ
ひて、
怒
いか
り
見囘
みまは
して、
手
て
なえたる
人
ひと
に『
手
て
を
伸
の
べよ』と
言
い
ひ
給
たま
ふ。かれ
手
て
を
伸
の
べたれば
癒󠄄
い
ゆ。
6
パリサイ
人
びと
いでて、
直
たゞ
ちにヘロデ
黨
たう
の
人
ひと
とともに、
如何
いか
にしてイエスを
亡
ほろぼ
さんと
議
はか
る。
7
イエスその
弟子
でし
とともに、
海邊
うみべ
に
退󠄃
しりぞ
き
給
たま
ひしに、ガリラヤより
來
きた
れる
夥多
おびたゞ
しき
民衆
みんしゅう
も
從
したが
ふ。
又󠄂
また
ユダヤ、
71㌻
8
エルサレム、イドマヤ、ヨルダンの
向
むかひ
の
地
ち
、およびツロ、シドンの
邊
ほとり
より
夥多
おびたゞ
しき
民衆
みんしゅう
その
爲
な
し
給
たま
へる
事
こと
を
聞
き
きて、
御許
みもと
に
來
きた
る。
9
イエス
群衆
ぐんじゅう
のおしなやますを
逃󠄄
のが
れんとて、
小舟
こぶね
を
備
そな
へ
置
お
くことを
弟子
でし
に
命
めい
じ
給
たま
ふ。
10
これ
多
おほ
くの
人
ひと
を
醫
いや
し
給
たま
ひたれば、
凡
すべ
て
病
やまひ
に
苦
くる
しむもの、
御體
みからだ
に
觸
さは
らんとて
押迫󠄃
おしせま
る
故
ゆゑ
なり。
11
また
穢
けが
れし
靈
れい
イエスを
見
み
る
每
ごと
に、
御前󠄃
みまへ
に
平󠄃伏
ひれふ
し、
叫
さけ
びて『なんぢは
神
かみ
の
子
こ
なり』と
言
い
ひたれば、
12
我
われ
を
顯
あらは
すなとて、
嚴
きび
しく
戒
いまし
め
給
たま
ふ。
13
イエス
山
やま
に
登
のぼ
り、
御意󠄃
みこゝろ
に
適󠄄
かな
ふ
者
もの
を
召
め
し
給
たま
ひしに、
彼
かれ
ら
御許
みもと
に
來
きた
る。
14
爰
こゝ
に
十二
じふに
人
にん
を
擧
あ
げたまふ。
是
これ
かれらを
御側
みそば
におき、また
敎
をしへ
を
宣
の
べさせ、
15
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
す
權威
けんゐ
を
用
もち
ひさする
爲
ため
に、
遣󠄃
つかは
さんとてなり。
16
此
こ
の《[*]》
十二
じふに
人
にん
を
擧
あ
げて、シモンにペテロといふ
名
な
をつけ、[*異本「此の十二人を擧げて」の句なし。]
17
ゼベダイの
子
こ
ヤコブ、その
兄弟
きゃうだい
ヨハネ、
此
こ
の
二人
ふたり
にボアネルゲ、
即
すなは
ち
雷霆
いかづち
の
子
こ
といふ
名
な
をつけ
給
たま
ふ。
18
又󠄂
また
アンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの
子
こ
ヤコブ、タダイ、
熱心
ねっしん
黨
たう
のシモン、
〘52㌻〙
19
及
およ
びイスカリオテのユダ、このユダはイエスを
賣
う
りしなり。
斯
かく
てイエス
家
いへ
に
入
い
り
給
たま
ひしに、
20
群衆
ぐんじゅう
また
集
あつま
り
來
きた
りたれば、
食󠄃事
しょくじ
する
暇
ひま
もなかりき。
21
その
親族
みうち
の
者
もの
これを
聞
き
き、イエスを
取押
とりおさ
へんとて
出
い
で
來
きた
る、イエスを
狂
くる
へりと
謂
い
ひてなり。
22
又󠄂
また
エルサレムより
下
くだ
れる
學者
がくしゃ
たちも『
彼
かれ
はベルゼブルに
憑
つ
かれたり』と
言
い
ひ、かつ『
惡鬼
あくき
の
首
かしら
によりて
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
すなり』と
言
い
ふ。
23
イエス
彼
かれ
らを
呼
よ
びよせ、
譬
たとへ
にて
言
い
ひ
給
たま
ふ『サタンは、いかでサタンを
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
し
得
え
んや。
24
もし
國
くに
分󠄃
わか
れ
爭
あらそ
はば、
其
そ
の
國
くに
立
た
つこと
能
あた
はず。
25
もし
家
いへ
分󠄃
わか
れ
爭
あらそ
はば、
其
そ
の
家
いへ
立
た
つこと
能
あた
はざるべし。
26
若
も
しサタン
己
おのれ
に
逆󠄃
さから
ひて
分󠄃
わか
れ
爭
あらそ
はば、
立
た
つこと
能
あた
はず、
反
かへ
つて
亡
ほろ
び
果
は
てん。
27
誰
たれ
にても
先
ま
づ
强
つよ
き
者
もの
を
縛
しば
らずば、
强
つよ
き
者
もの
の
家
いへ
に
入
い
りて
其
そ
の
家財
かざい
を
奪
うば
ふこと
能
あた
はじ、
縛
しば
りて
後
のち
その
家
いへ
を
奪
うば
ふべし。
72㌻
28
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
人
ひと
の
子
こ
らの
凡
すべ
ての
罪
つみ
と、けがす
瀆
けがし
とは
赦
ゆる
されん。
29
然
さ
れど
聖󠄄
せい
靈
れい
をけがす
者
もの
は、
永遠󠄄
とこしへ
に
赦
ゆる
されず、
永遠󠄄
とこしへ
の
罪
つみ
に
定
さだ
めらるべし』
30
これは
彼
かれ
らイエスを『
穢
けが
れし
靈
れい
に
憑
つ
かれたり』と
云
い
へるが
故
ゆゑ
なり。
31
爰
こゝ
にイエスの
母
はは
と
兄弟
きゃうだい
と
來
きた
りて
外
そと
に
立
た
ち、
人
ひと
を
遣󠄃
つかは
してイエスを
呼
よ
ばしむ。
32
群衆
ぐんじゅう
イエスを
環
めぐ
りて
坐
ざ
したりしが、
或
ある
者
もの
いふ『
視
み
よ、なんぢの
母
はは
と
兄弟
きゃうだい
・
姉妹
しまい
と
外
そと
にありて
汝
なんぢ
を
尋󠄃
たづ
ぬ』
33
イエス
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『わが
母
はは
、わが
兄弟
きゃうだい
とは
誰
たれ
ぞ』
34
斯
かく
て
周󠄃圍
まはり
に
坐
ざ
する
人々
ひとびと
を
見囘
みまは
して
言
い
ひたまふ『
視
み
よ、これは
我
わ
が
母
はは
、わが
兄弟
きゃうだい
なり。
35
誰
たれ
にても
神
かみ
の
御意󠄃
みこゝろ
を
行
おこな
ふものは、
是
これ
わが
兄弟
きゃうだい
、わが
姉妹
しまい
、わが
母
はは
なり』
第4章
1
イエスまた
海邊
うみべ
にて
敎
をし
へ
始
はじ
めたまふ。
夥多
おびたゞ
しき
群衆
ぐんじゅう
、みもとに
集
あつま
りたれば、
舟
ふね
に
乘
の
り
海
うみ
に
泛
うか
びて
坐
ざ
したまひ、
群衆
ぐんじゅう
はみな
海
うみ
に
沿
そ
ひて
陸
をか
にあり。
2
譬
たとへ
にて
數多
あまた
の
事
こと
ををしへ、
敎
をしへ
の
中
うち
に
言
い
ひたまふ、
3
『
聽
き
け、
種
たね
播
ま
くもの、
播
ま
かんとて
出
い
づ。
4
播
ま
くとき、
路
みち
の
傍
かたは
らに
落
お
ちし
種
たね
あり、
鳥
とり
きたりて
啄
ついば
む。
5
土
つち
うすき
磽地
いしぢ
に
落
お
ちし
種
たね
あり、
土
つち
深
ふか
からぬによりて、
速󠄃
すみや
かに
萠
も
え
出
い
でたれど、
6
日
ひ
出
い
でてやけ、
根
ね
なき
故
ゆゑ
に
枯
か
る。
7
茨
いばら
の
中
なか
に
落
お
ちし
種
たね
あり、
茨
いばら
そだち
塞
ふさ
ぎたれば、
實
み
を
結
むす
ばず。
8
良
よ
き
地
ち
に
落
お
ちし
種
たね
あり、
生
は
え
出
い
でて
茂
しげ
り、
實
み
を
結
むす
ぶこと、
三十
さんじふ
倍
ばい
、
六十
ろくじふ
倍
ばい
、
百
ひゃく
倍
ばい
せり』
9
また
言
い
ひ
給
たま
ふ『きく
耳
みゝ
ある
者
もの
は
聽
き
くべし』
〘53㌻〙
10
イエス
人々
ひとびと
を
離
はな
れ
居給
ゐたま
ふとき、
御許
みもと
にをる
者
もの
ども、
十二
じふに
弟子
でし
とともに、
此
これ
等
ら
の
譬
たとへ
を
問
と
ふ。
11
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢらには
神
かみ
の
國
くに
の
奧義
おくぎ
を
與
あた
ふれど、
外
そと
の
者
もの
には、
凡
すべ
て
譬
たとへ
にて
敎
をし
ふ。
12
これ「
見
み
るとき
見
み
ゆとも
認󠄃
みと
めず、
聽
き
くとき
聞
きこ
ゆとも
悟
さと
らず、
飜
ひるが
へりて
赦
ゆる
さるる
事
こと
なからん」
爲
ため
なり』
73㌻
13
また
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
此
こ
の
譬
たとへ
を
知
し
らぬか、
然
さ
らば
爭
いか
でもろもろの
譬
たとへ
を
知
し
り
得
え
んや。
14
播
ま
く
者
もの
は
御言
みことば
を
播
ま
くなり。
15
御言
みことば
の
播
ま
かれて
路
みち
の
傍
かたは
らにありとは、
斯
かゝ
る
人
ひと
をいふ、
即
すなは
ち
聞
き
くとき、
直
たゞ
ちにサタン
來
きた
りて、その
播
ま
かれたる
御言
みことば
を
奪
うば
ふなり。
16
同
おな
じく
播
ま
かれて
磽地
いしぢ
にありとは、
斯
かゝ
る
人
ひと
をいふ、
即
すなは
ち
御言
みことば
をききて、
直
たゞ
ちに
喜
よろこ
び
受
う
くれども、
17
その
中
うち
に
根
ね
なければ、ただ
暫
しば
し
保
たも
つのみ、
御言
みことば
のために、
患難
なやみ
また
迫󠄃害󠄅
はくがい
にあふ
時
とき
は、
直
たゞ
ちに
躓
つまづ
くなり。
18
また
播
ま
かれて
茨
いばら
の
中
なか
にありとは、
斯
かゝ
る
人
ひと
をいふ、
19
即
すなは
ち
御言
みことば
をきけど、
世
よ
の
心勞
こゝろづかひ
、
財貨
たから
の
惑
まどひ
、さまざまの
慾
よく
いりきたり、
御言
みことば
を
塞
ふさ
ぐによりて、
遂󠄅
つひ
に
實
みの
らざるなり。
20
播
ま
かれて
良
よ
き
地
ち
にありとは、
斯
かゝ
る
人
ひと
をいふ、
即
すなは
ち
御言
みことば
を
聽
き
きて
受
う
け、
三十
さんじふ
倍
ばい
、
六十
ろくじふ
倍
ばい
、
百
ひゃく
倍
ばい
の
實
み
を
結
むす
ぶなり』
21
また
言
い
ひたまふ『
升
ます
のした、
寢臺
ねだい
の
下
した
におかんとて、
燈火
ともしび
をもち
來
きた
るか、
燈臺
とうだい
の
上
うへ
におく
爲
ため
ならずや。
22
それ
顯
あらは
るる
爲
ため
ならで、
隱
かく
るるものなく、
明
あきら
かにせらるる
爲
ため
ならで、
祕
ひ
めらるるものなし。
23
聽
き
く
耳
みみ
ある
者
もの
は
聽
き
くべし』
24
また
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
聽
き
くことに
心
こゝろ
せよ、
汝
なんぢ
らが
量
はか
る
量
はかり
にて
量
はか
られ、
更
さら
に
增
ま
し
加
くは
へらるべし。
25
それ
有
も
てる
人
ひと
は、なほ
與
あた
へられ、
有
も
たぬ
人
ひと
は、
有
も
てる
物
もの
をも
取
と
らるべし』
26
また
言
い
ひたまふ『
神
かみ
の
國
くに
は、
或
ある
人
ひと
、たねを
地
ち
に
播
ま
くが
如
ごと
し、
27
日夜
にちや
起󠄃臥
おきふし
するほどに、
種
たね
はえ
出
い
でて
育
そだ
てども、その
故
ゆゑ
を
知
し
らず。
28
地
ち
はおのづから
實
み
を
結
むす
ぶものにして、
初
はじめ
には
苗
なへ
、つぎに
穗
ほ
、つひに
穗
ほ
の
中
なか
に
充
み
ち
足
た
れる
穀
こく
なる。
29
實
み
、
熟
みの
れば
直
たゞ
ちに
鎌
かま
を
入
い
る、
收穫時
かりいれどき
の
到
いた
れるなり』
74㌻
30
また
言
い
ひ
給
たま
ふ『われら
神
かみ
の
國
くに
を
何
なに
になずらへ、
如何
いか
なる
譬
たとへ
をもて
示
しめ
さん。
31
一粒
ひとつぶ
の
芥種
からしだね
のごとし、
地
ち
に
播
ま
く
時
とき
は、
世
よ
にある
萬
よろづ
の
種
たね
よりも
小
ちひさ
けれど、
32
旣
すで
に
播
ま
きて
生
は
え
出
い
づれば、
萬
よろづ
の
野菜
やさい
よりは
大
おほき
く、かつ
大
おほい
なる
枝
えだ
を
出
いだ
して、
空󠄃
そら
の
鳥
とり
その
蔭
かげ
に
棲
す
み
得
う
るほどになるなり』
33
斯
かく
のごとき
數多
あまた
の
譬
たとへ
をもて、
人々
ひとびと
の
聽
き
きうる
力
ちから
に
隨
したが
ひて、
御言
みことば
を
語
かた
り、
34
譬
たとへ
ならでは
語
かた
り
給
たま
はず、
弟子
でし
たちには、
人
ひと
なき
時
とき
に
凡
すべ
ての
事
こと
を
釋
と
き
給
たま
へり。
〘54㌻〙
35
その
日
ひ
、
夕
ゆふべ
になりて
言
い
ひ
給
たま
ふ『いざ
彼方
かなた
に
徃
ゆ
かん』
36
弟子
でし
たち
群衆
ぐんじゅう
を
離
はな
れ、イエスの
舟
ふね
にゐ
給
たま
ふまま
共
とも
に
乘
の
り
出
い
づ、
他
ほか
の
舟
ふね
も
從
したが
ひゆく。
37
時
とき
に
烈
はげ
しき
颶風
はやて
おこり、
浪
なみ
うち
込󠄃
こ
みて、
舟
ふね
に
滿
み
つるばかりなり。
38
イエスは
艫
とも
の
方
かた
に
茵
しとね
を
枕
まくら
として
寢
い
ねたまふ。
弟子
でし
たち
呼
よ
び
起󠄃
おこ
して
言
い
ふ『
師
し
よ、
我
われ
らの
亡
ほろ
ぶるを
顧󠄃
かへり
み
給
たま
はぬか』
39
イエス
起󠄃
お
きて
風
かぜ
をいましめ、
海
うみ
に
言
い
ひたまふ『
默
もだ
せ、
鎭
しづま
れ』
乃
すなは
ち
風
かぜ
やみて、
大
おほい
なる
凪
なぎ
となりぬ。
40
斯
かく
て
弟子
でし
たちに
言
い
ひ
給
たま
ふ『なに
故
ゆゑ
かく
臆
おく
するか、
信仰
しんかう
なきは
何
なん
ぞ』
41
かれら
甚
いた
く
懼
おそ
れて
互
たがひ
に
言
い
ふ『こは
誰
たれ
ぞ、
風
かぜ
も
海
うみ
も
順
したが
ふとは』
第5章
1
斯
かく
て
海
うみ
の
彼方
かなた
なるゲラセネ
人
びと
の
地
ち
に
到
いた
る。
2
イエスの
舟
ふね
より
上
あが
り
給
たま
ふとき、
穢
けが
れし
靈
れい
に
憑
つ
かれたる
人
ひと
、
墓
はか
より
出
い
でて、
直
たゞ
ちに
遇󠄃
あ
ふ。
3
この
人
ひと
、
墓
はか
を
住󠄃處
すみか
とす、
鏈
くさり
にてすら
今
いま
は
誰
たれ
も
繋
つな
ぎ
得
え
ず。
4
彼
かれ
はしばしば
足械
あしかせ
と
鏈
くさり
とにて
繋
つな
がれたれど、
鏈
くさり
をちぎり、
足械
あしかせ
をくだきたり、
誰
たれ
も
之
これ
を
制
せい
する
力
ちから
なかりしなり。
5
夜
よる
も
晝
ひる
も、
絕
た
えず
墓
はか
あるひは
山
やま
にて
叫
さけ
び、
己
おの
が
身
み
を
石
いし
にて
傷
きず
つけゐたり。
6
かれ
遙
はるか
にイエスを
見
み
て、
走
はし
りきたり、
御前󠄃
みまへ
に
平󠄃伏
ひれふ
し、
7
大聲
おほごゑ
に
叫
さけ
びて
言
い
ふ『いと
高
たか
き
神
かみ
の
子
こ
イエスよ、
我
われ
は
汝
なんぢ
と
何
なに
の
關係
かゝはり
あらん、
神
かみ
によりて
願
ねが
ふ、
我
われ
を
苦
くる
しめ
給
たま
ふな』
75㌻
8
これはイエス『
穢
けが
れし
靈
れい
よ、この
人
ひと
より
出
い
で
徃
ゆ
け』と
言
い
ひ
給
たま
ひしに
因
よ
るなり。
9
イエスまた『なんぢの
名
な
は
何
なに
か』と
問
と
ひ
給
たま
へば『わが
名
な
はレギオン、
我
われ
ら
多
おほ
きが
故
ゆゑ
なり』と
答
こた
へ、
10
また
己
おのれ
らを
此
こ
の
地
ち
の
外
そと
に
逐󠄃
お
ひやり
給
たま
はざらんことを
切
せつ
に
求
もと
む。
11
彼處
かしこ
の
山邊
やまべ
に
豚
ぶた
の
大
おほい
なる
群
むれ
、
食󠄃
しょく
しゐたり。
12
惡鬼
あくき
どもイエスに
求
もと
めて
言
い
ふ『われらを
遣󠄃
つかは
して
豚
ぶた
に
入
い
らしめ
給
たま
へ』
13
イエス
許
ゆる
したまふ。
穢
けが
れし
靈
れい
いでて、
豚
ぶた
に
入
い
りたれば、
二千
にせん
匹
びき
ばかりの
群
むれ
、
海
うみ
に
向
むか
ひて、
崖
がけ
を
駈
か
けくだり、
海
うみ
に
溺
おぼ
れたり。
14
飼
か
ふ
者
もの
ども
逃󠄄
に
げ
徃
ゆ
きて、
町
まち
にも
里
さと
にも
吿
つ
げたれば、
人々
ひとびと
何事
なにごと
の
起󠄃
おこ
りしかを
見
み
んとて
出
い
づ。
15
斯
かく
てイエスに
來
きた
り、
惡鬼
あくき
に
憑
つ
かれたりし
者
もの
、
即
すなは
ちレギオンをもちたりし
者
もの
の、
衣服󠄃
ころも
をつけ、
慥
たしか
なる
心
こゝろ
にて
坐
ざ
しをるを
見
み
て、
懼
おそ
れあへり。
16
かの
惡鬼
あくき
に
憑
つ
かれたる
者
もの
の
上
うへ
にありし
事
こと
と、
豚
ぶた
の
事
こと
とを
見
み
し
者
もの
ども、
之
これ
を
具󠄄
つぶさ
に
吿
つ
げたれば、
17
人々
ひとびと
イエスにその
境
さかひ
を
去
さ
り
給
たま
はん
事
こと
を
求
もと
む。
18
イエス
舟
ふね
に
乘
の
らんとし
給
たま
ふとき、
惡鬼
あくき
に
憑
つ
かれたりしもの
偕
とも
に
在
あ
らん
事
こと
を
願
ねが
ひたれど、
19
許
ゆる
さずして
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢの
家
いへ
に、
親
した
しき
者
もの
に
歸
かへ
りて、
主
しゅ
がいかに
大
おほい
なる
事
こと
を
汝
なんぢ
に
爲
な
し、いかに
汝
なんぢ
を
憫
あはれ
み
給
たま
ひしかを
吿
つ
げよ』
〘55㌻〙
20
彼
かれ
ゆきてイエスの
如何
いか
に
大
おほい
なる
事
こと
を
己
おのれ
になし
給
たま
ひしかをデカポリスに
言
い
ひ
弘
ひろ
めたれば、
人々
ひとびと
みな
怪
あや
しめり。
21
イエス
舟
ふね
にて、
復
また
かなたに
渡
わた
り
給
たま
ひしに、
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
みもとに
集
あつま
る、イエス
海邊
うみべ
に
在
いま
せり。
22
會堂
くわいだう
司
つかさ
の
一人
ひとり
、ヤイロという
者
もの
きたり、イエスを
見
み
て、その
足下
あしもと
に
伏
ふ
し、
23
切
せつ
に
願
ねが
ひて
言
い
ふ『わが
稚
いとけ
なき
娘
むすめ
、いまはの
際
きは
なり、
來
きた
りて
手
て
をおき
給
たま
へ、さらば
救
すく
はれて
活
い
くべし』
24
イエス
彼
かれ
と
共
とも
にゆき
給
たま
へば、
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
したがひつつ
御許
みもと
に
押迫󠄃
おしせま
る。
76㌻
25
爰
こゝ
に
十
じふ
二年
にねん
、
血漏
ちらう
を
患
わづら
ひたる
女
をんな
あり。
26
多
おほ
くの
醫者
いしゃ
に
多
おほ
く
苦
くる
しめられ、
有
も
てる
物
もの
をことごとく
費
つひや
したれど、
何
なに
の
效
かひ
なく、
反
かへ
つて
增々
ますます
惡
あ
しくなりたり。
27
イエスの
事
こと
をききて、
群衆
ぐんじゅう
にまじり、
後
うしろ
に
來
きた
りて、
御衣
みころも
にさはる、
28
『その
衣
ころも
にだに
觸
さは
らば
救
すく
はれん』と
自
みづか
ら
謂
い
へり。
29
斯
かく
て
血
ち
の
泉
いづみ
、ただちに
乾
かわ
き、
病
やまひ
のいえたるを
身
み
に
覺
おぼ
えたり。
30
イエス
直
たゞ
ちに
能力
ちから
の
己
おのれ
より
出
い
でたるを
自
みづか
ら
知
し
り、
群衆
ぐんじゅう
の
中
なか
にて、
振反
ふりかへ
り
言
い
ひたまふ『
誰
たれ
が
我
われ
の
衣
ころも
に
觸
さは
りしぞ』
31
弟子
でし
たち
言
い
ふ『
群衆
ぐんじゅう
の
押迫󠄃
おしせま
るを
見
み
て、
誰
たれ
が
我
われ
に
觸
さは
りしぞと
言
い
ひ
給
たま
ふか』
32
イエスこの
事
こと
を
爲
な
しし
者
もの
を
見
み
んとて
見囘
みまは
し
給
たま
ふ。
33
女
をんな
おそれ
戰
をのゝ
き、
己
おの
が
身
み
になりし
事
こと
を
知
し
り、
來
きた
りて
御前󠄃
みまへ
に
平󠄃伏
ひれふ
し、ありしままを
吿
つ
ぐ。
34
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『
娘
むすめ
よ、なんぢの
信仰
しんかう
なんぢを
救
すく
へり、
安
やす
らかに
徃
ゆ
け、
病
やまひ
いえて
健
すこや
かになれ』
35
かく
語
かた
り
給
たま
ふほどに、
會堂
くわいだう
司
つかさ
の
家
いへ
より
人々
ひとびと
きたりて
言
い
ふ『なんぢの
娘
むすめ
は
早
は
や
死
し
にたり、
爭
いか
でなほ
師
し
を
煩
わづら
はすべき』
36
イエス
其
そ
の
吿
つ
ぐる
言
ことば
を
傍
かたへ
より
聞
き
きて、
會堂
くわいだう
司
つかさ
に
言
い
ひたまふ『
懼
おそ
るな、ただ
信
しん
ぜよ』
37
斯
かく
てペテロ、ヤコブその
兄弟
きゃうだい
ヨハネの
他
ほか
は、ともに
徃
ゆ
く
事
こと
を
誰
たれ
にも
許
ゆる
し
給
たま
はず。
38
彼
かれ
ら
會堂
くわいだう
司
つかさ
の
家
いへ
に
來
きた
る。イエス
多
おほ
くの
人
ひと
の、
甚
いた
く
泣
な
きつ
叫
さけ
びつする
騷
さわぎ
を
見
み
、
39
入
い
りて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぞ
騷
さわ
ぎ、かつ
泣
な
くか、
幼兒
をさなご
は
死
し
にたるにあらず、
寐
い
ねたるなり』
40
人々
ひとびと
イエスを
嘲笑
あざわら
ふ。イエス
彼
かれ
等
ら
をみな
外
そと
に
出
いだ
し、
幼兒
をさなご
の
父󠄃
ちち
と
母
はは
と
己
おのれ
に
伴󠄃
ともな
へる
者
もの
とを
率󠄃
ひ
きつれて、
幼兒
をさなご
のをる
處
ところ
に
入
い
り、
41
幼兒
をさなご
の
手
て
を
執
と
りて『タリタ、クミ』と
言
い
ひたまふ。
少女
せうじょ
よ、
我
われ
なんぢに
言
い
ふ、
起󠄃
お
きよ、との
意󠄃
こゝろ
なり。
42
直
たゞ
ちに
少女
せうじょ
たちて
步
あゆ
む、その
歳
とし
十二
じふに
なりければなり。
彼
かれ
ら
直
たゞ
ちに
甚
いた
く
驚
をどろ
きおどろけり。
43
イエス
此
こ
の
事
こと
を
誰
たれ
にも
知
し
れぬやうにせよと、
堅
かた
く
彼
かれ
らを
戒
いまし
め、また
食󠄃物
しょくもつ
を
娘
むすめ
に
與
あた
ふることを
命
めい
じ
給
たま
ふ。
〘56㌻〙
77㌻
第6章
1
斯
かく
て
其處
そこ
をいで、
己
おの
が
郷
さと
に
到
いた
り
給
たま
ひしに、
弟子
でし
たちも
從
したが
へり。
2
安息
あんそく
日
にち
になりて、
會堂
くわいだう
にて
敎
をし
へ
始
はじ
め
給
たま
ひしに、
聞
き
きたる
多
おほ
くのもの
驚
をどろ
きて
言
い
ふ『この
人
ひと
は
此
これ
等
ら
のことを
何處
いづこ
より
得
え
しぞ、
此
こ
の
人
ひと
の
授
さづ
けられたる
智慧󠄄
ちゑ
は
何
なに
ぞ、その
手
て
にて
爲
な
す
斯
かく
のごとき
能力
ちから
あるわざは
何
なに
ぞ。
3
此
こ
の
人
ひと
は
木匠
たくみ
にして、マリヤの
子
こ
、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの
兄弟
きゃうだい
ならずや、
其
そ
の
姉妹
しまい
も
此處
ここ
に
我
われ
らと
共
とも
にをるに
非
あら
ずや』
遂󠄅
つひ
に
彼
かれ
に
躓
つまづ
けり。
4
イエス
彼
かれ
らに
言
い
ひたまふ『
預言者
よげんしゃ
は、おのが
郷
さと
、おのが
親族
しんぞく
、おのが
家
いへ
の
外
ほか
にて
尊󠄅
たふと
ばれざる
事
こと
なし』
5
彼處
かしこ
にては、
何
なに
の
能力
ちから
ある
業
わざ
をも
行
おこな
ひ
給
たま
ふこと
能
あた
はず、ただ
少數
せうすう
の
病
や
める
者
もの
に、
手
て
をおきて
醫
いや
し
給
たま
ひしのみ。
6
彼
かれ
らの
信仰
しんかう
なきを
怪
あや
しみ
給
たま
へり。
斯
かく
て
村々
むらむら
を
歷
へ
巡󠄃
めぐ
りて
敎
をし
へ
給
たま
ふ。
7
また
十二
じふに
弟子
でし
を
召
め
し、
二人
ふたり
づつ
遣󠄃
つかは
しはじめ、
穢
けが
れし
靈
れい
を
制
せい
する
權威
けんゐ
を
與
あた
へ、
8
かつ
旅
たび
のために、
杖
つゑ
一
ひと
つの
他
ほか
は、
何
なに
をも
持
も
たず、
糧
かて
も
嚢
ふくろ
も
帶
おび
の
中
なか
に
錢
ぜに
をも
持
も
たず、
9
ただ
草鞋
わらぢ
ばかりをはきて、
二
ふた
つの
下衣
したぎ
をも
著
き
ざることを
命
めい
じ
給
たま
へり。
10
斯
かく
て
言
い
ひたまふ『
何處
いづこ
にても
人
ひと
の
家
いへ
に
入
い
らば、その
地
ち
を
去
さ
るまで
其處
そこ
に
留
とゞま
れ。
11
何地
いづち
にても
汝
なんぢ
らを
受
う
けず、
汝
なんぢ
らに
聽
き
かずば、
其處
そこ
を
出
い
づるとき、
證
あかし
のために
足
あし
の
裏
うら
の
塵
ちり
を
拂
はら
へ』
12
爰
こゝ
に
弟子
でし
たち
出
い
で
徃
ゆ
きて、
悔改
くいあらた
むべきことを
宣傅
のべつた
へ、
13
多
おほ
くの
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひいだし、
多
おほ
くの
病
や
める
者
もの
に
油
あぶら
をぬりて
醫
いや
せり。
14
斯
かく
てイエスの
名
な
顯
あらは
れたれば、ヘロデ
王
わう
ききて
言
い
ふ『バプテスマのヨハネ、
死人
しにん
の
中
うち
より
甦
よみが
へりたり。この
故
ゆゑ
に
此
これ
等
ら
の
能力
ちから
その
中
うち
に
働
はたら
くなり』
15
或
ある
人
ひと
は『エリヤなり』といひ、
或
ある
人
ひと
は『
預言者
よげんしゃ
、いにしへの
預言者
よげんしゃ
のごとき
者
もの
なり』といふ。
78㌻
16
ヘロデ
聞
き
きて
言
い
ふ『わが
首斬
くびき
りしヨハネ、かれ
甦
よみが
へりたるなり』
17
ヘロデ
先
さき
にその
娶
めと
りたる
己
おの
が
兄弟
きゃうだい
ピリポの
妻
つま
ヘロデヤの
爲
ため
に、みづから
人
ひと
を
遣󠄃
つかは
し、ヨハネを
捕
とら
へて
獄
ひとや
に
繋
つな
げり。
18
ヨハネ、ヘロデに『その
兄弟
きゃうだい
の
妻
つま
を
納󠄃
い
るるは、
宣
よろ
しからず』と
言
い
へるに
因
よ
る。
19
ヘロデヤ、ヨハネを
怨
うら
みて
殺
ころ
さんと
思
おも
へど
能
あた
はず。
20
それはヘロデ、ヨハネの
義
ぎ
にして
聖󠄄
せい
なる
人
ひと
たるを
知
し
りて、
之
これ
を
畏
おそ
れ、
之
これ
を
護
まも
り、
且
かつ
その
敎
をしへ
をききて、
大
おほい
に
惱
なや
みつつも、なほ
喜
よろこ
びて
聽
き
きたる
故
ゆゑ
なり。
21
然
しか
るに
機
をり
よき
日
ひ
來
きた
れり。ヘロデ
己
おの
が
誕生日
たんじゃうび
に、
大臣
だいじん
・
將校
しゃうこう
・ガリラヤの
貴人
きにん
たちを
招
まね
きて
饗宴
ふるまひ
せしに、
22
かのヘロデヤの
娘
むすめ
いり
來
きた
りて、
舞
まひ
をまひ、ヘロデと
其
そ
の
席
せき
に
列
つらな
れる
者
もの
とを
喜
よろこ
ばしむ。
王
わう
、
少女
せうじょ
に
言
い
ふ『
何
なに
にても
欲
ほ
しく
思
おも
ふものを
求
もと
めよ、
我
われ
あたへん』
〘57㌻〙
23
また
誓
ちか
ひて
言
い
ふ『なんぢ
求
もと
めば、
我
わ
が
國
くに
の
半󠄃
なかば
までも
與
あた
へん』
24
娘
むすめ
いでて
母
はは
にいふ『
何
なに
を
求
もと
むべきか』
母
はは
いふ『バプテスマのヨハネの
首
くび
を』
25
娘
むすめ
ただちに
急󠄃
いそ
ぎて
王
わう
の
許
もと
に
入
い
りきたり、
求
もと
めて
言
い
ふ『ねがはくは、バプテスマのヨハネの
首
くび
を
盆󠄃
ぼん
に
載
の
せて
速󠄃
すみや
かに
賜
たま
はれ』
26
王
わう
いたく
憂
うれ
ひたれど、その
誓
ちかひ
と
席
せき
に
在
あ
る
者
もの
とに
對
たい
して
拒
こば
むことを
好
この
まず、
27
直
たゞ
ちに
衞兵
ゑいへい
を
遣󠄃
つかは
し、
之
これ
にヨハネの
首
くび
を
持
も
ち
來
きた
ることを
命
めい
ず、
衞兵
ゑいへい
ゆきて
獄
ひとや
にて、ヨハネを
首斬
くびき
り、
28
その
首
くび
を
盆󠄃
ぼん
にのせ、
持
も
ち
來
きた
りて
少女
せうじょ
に
與
あた
ふ、
少女
せうじょ
これを
母
はは
に
與
あた
ふ。
29
ヨハネの
弟子
でし
たち
聞
き
きて
來
きた
り、その
屍體
しかばね
を
取
と
りて
墓
はか
に
納󠄃
をさ
めたり。
30
使徒
しと
たちイエスの
許
もと
に
集
あつま
りて、その
爲
な
ししこと、
敎
をし
へし
事
こと
をことごとく
吿
つ
ぐ。
31
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
人
ひと
を
避󠄃
さ
け、
寂
さび
しき
處
ところ
に、いざ
來
きた
りて
暫
しば
し
息
いこ
へ』これは
徃來
ゆきき
の
人
ひと
おほくして、
食󠄃
しょく
する
暇
ひま
だになかりし
故
ゆゑ
なり。
32
斯
かく
て
人
ひと
を
避󠄃
さ
け、
舟
ふね
にて
寂
さび
しき
處
ところ
にゆく。
33
其
そ
の
徃
ゆ
くを
見
み
て、
多
おほ
くの
人
ひと
それと
知
し
り、その
處
ところ
を
指
さ
して、
町々
まちまち
より
徒步
かち
にてともに
走
はし
り、
彼
かれ
等
ら
よりも
先
さき
に
徃
ゆ
けり。
79㌻
34
イエス
出
い
でて
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
を
見
み
、その
牧
か
ふ
者
もの
なき
羊
ひつじ
の
如
ごと
くなるを
甚
いた
く
憫
あはれ
みて、
多
おほ
くの
事
こと
を
敎
をし
へはじめ
給
たま
ふ。
35
時
とき
すでに
晩
おそ
くなりたれば、
弟子
でし
たち
御許
みもと
に
來
きた
りていふ『ここは
寂
さび
しき
處
ところ
、はや
時
とき
も
晩
おそ
し。
36
人々
ひとびと
を
去
さ
らしめ、
周󠄃圍
まはり
の
里
さと
また
村
むら
に
徃
ゆ
きて、
己
おの
がために
食󠄃物
しょくもつ
を
買
か
はせ
給
たま
へ』
37
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
食󠄃物
しょくもつ
を
與
あた
へよ』
弟子
でし
たち
言
い
ふ『われら
徃
ゆ
きて
二
に
百
ひゃく
デナリのパンを
買
か
ひ、これに
與
あた
へて
食󠄃
くら
はすべきか』
38
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『パン
幾
いく
つあるか、
徃
ゆ
きて
見
み
よ』
彼
かれ
ら
見
み
ていふ『
五
いつ
つ、また
魚
うを
二
ふた
つあり』
39
イエス
凡
すべ
ての
人
ひと
の
組々
くみぐみ
となりて、
靑
あを
草
くさ
の
上
うへ
に
坐
ざ
することを
命
めい
じ
給
たま
へば、
40
或
あるひ
は
百
ひゃく
人
にん
、あるひは
五
ご
十
じふ
人
にん
、
畝
うね
のごとく
列
なら
びて
坐
ざ
す。
41
斯
かく
てイエス
五
いつ
つのパンと
二
ふた
つの
魚
うを
とを
取
と
り、
天
てん
を
仰
あふ
ぎて
祝
しく
しパンをさき、
弟子
でし
たちに
付
わた
して
人々
ひとびと
の
前󠄃
まへ
に
置
お
かしめ、
二
ふた
つの
魚
うを
をも
人
ひと
每
ごと
に
分󠄃
わ
け
給
たま
ふ。
42
凡
すべ
ての
人
ひと
、
食󠄃
くら
ひて
飽󠄄
あ
きたれば、
43
パンの
餘
あまり
、
魚
うを
の
殘
のこり
を
集
あつ
めしに、
十二
じふに
の
筐
かご
に
滿
み
ちたり。
44
パンを
食󠄃
くら
ひたる
男
をとこ
は
五
ご
千
せん
人
にん
なりき。
45
イエス
直
たゞ
ちに、
弟子
でし
たちを
强
し
ひて
舟
ふね
に
乘
の
らせ、
自
みづか
ら
群衆
ぐんじゅう
を
返󠄄
かへ
す
間
ま
に、
彼方
かなた
なるベツサイダに
先
さき
に
徃
ゆ
かしむ。
46
群衆
ぐんじゅう
に
別
わか
れてのち、
祈
いの
らんとて
山
やま
にゆき
給
たま
ふ。
〘58㌻〙
47
夕
ゆふべ
になりて、
舟
ふね
は
海
うみ
の
眞中
まなか
にあり、イエスはひとり
陸
をか
に
在
いま
す。
48
風
かぜ
逆󠄃
さから
ふに
因
よ
りて、
弟子
でし
たちの
漕
こ
ぎ
煩
わづら
ふを
見
み
て、
夜明
よあけ
の
四時
よじ
ごろ、
海
うみ
の
上
うへ
を
步
あゆ
み、その
許
もと
に
到
いた
りて、
徃
ゆ
き
過󠄃
す
ぎんとし
給
たま
ふ。
49
弟子
でし
たち
其
そ
の
海
うみ
の
上
うへ
を
步
あゆ
み
給
たま
ふを
見
み
、
變化
へんげ
の
者
もの
ならんと
思
おも
ひて
叫
さけ
ぶ。
50
皆
みな
これを
見
み
て
心
こゝろ
騷
さわ
ぎたるに
因
よ
る。イエス
直
たゞ
ちに
彼
かれ
らに
語
かた
りて
言
い
ひ
給
たま
ふ『
心
こゝろ
安
やす
かれ、
我
われ
なり、
懼
おそ
るな』
51
斯
かく
て
弟子
でし
たちの
許
もと
にゆき、
舟
ふね
に
登
のぼ
り
給
たま
へば、
風
かぜ
やみたり。
弟子
でし
たち
心
こゝろ
の
中
うち
にて
甚
いた
く
驚
をどろ
く、
52
彼
かれ
らは
先
さき
のパンの
事
こと
をさとらず、
反
かへ
つて
其
そ
の
心
こゝろ
鈍
にぶ
くなりしなり。
80㌻
53
遂󠄅
つひ
に
渡
わた
りてゲネサレの
地
ち
に
著
つ
き、
舟
ふね
がかりす。
54
舟
ふね
より
上
あが
りしに、
人々
ひとびと
ただちにイエスを
認󠄃
みと
めて、
55
徧
あまね
くあたりを
馳
は
せまはり、その
在
いま
すと
聞
き
く
處々
ところどころ
に、
患
わづら
ふ
者
もの
を
床
とこ
のままつれ
來
きた
る。
56
その
到
いた
りたまふ
處
ところ
には、
村
むら
にても、
町
まち
にても、
里
さと
にても、
病
や
める
者
もの
を
市場
いちば
におきて、
御衣
みころも
の
總
ふさ
にだに
觸
さは
らしめ
給
たま
はんことを
願
ねが
ふ。
觸
さは
りし
者
もの
は、みな
醫
いや
されたり。
第7章
1
パリサイ
人
びと
と
或
あ
る
學者
がくしゃ
らとエルサレムより
來
きた
りてイエスの
許
もと
に
集
あつま
る。
2
而
しか
して、その
弟子
でし
たちの
中
うち
に、
潔󠄄
きよ
からぬ
手
て
、
即
すなは
ち
洗
あら
はぬ
手
て
にて
食󠄃事
しょくじ
する
者
もの
のあるを
見
み
たり。
3
パリサイ
人
びと
および
凡
すべ
てのユダヤ
人
びと
は、
古
いにし
への
人
ひと
の
言傳
いひつたへ
を
固
かた
く
執
と
りて、
懇
ねんご
ろに
手
て
を
洗
あら
はねば
食󠄃
くら
はず。
4
また
市場
いちば
より
歸
かへ
りては、まず
禊
みそ
がざれば
食󠄃
くら
はず。このほか
酒杯
さかづき
・
鉢
はち
・
銅
あかがね
の
器
うつは
を
濯󠄄
すゝ
ぐなど
多
おほ
くの
傳
つたへ
を
承
う
けて
固
かた
く
執
と
りたり。
5
パリサイ
人
びと
および
學者
がくしゃ
らイエスに
問
と
ふ『なにゆゑ
汝
なんぢ
の
弟子
でし
たちは、
古
いにし
への
人
ひと
の
言傳
いひつたへ
に
遵󠄅
したが
ひて
步
あゆ
まず、
潔󠄄
きよ
からぬ
手
て
にて
食󠄃事
しょくじ
するか』
6
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『イザヤは
汝
なんぢ
ら
僞善者
ぎぜんしゃ
につきて
能
よ
く
預言
よげん
せり。 「この
民
たみ
は
口唇
くちびる
にて
我
われ
を
敬
うやま
ふ、
然
さ
れど、その
心
こゝろ
は
我
われ
に
遠󠄄
とほ
ざかる。
7
ただ
徒
いたづ
らに
我
われ
を
拜
をが
む、
人
ひと
の
訓誡
いましめ
を
敎
をしへ
とし
敎
をし
へて」と
錄
しる
したり。
8
汝
なんぢ
らは
神
かみ
の
誡命
いましめ
を
離
はな
れて
人
ひと
の
言傳
いひつたへ
を
固
かた
く
執
と
る』
9
また
言
い
ひたまふ『
汝
なんぢ
等
ら
はおのれの
言傳
いひつたへ
を
守
まも
らんとて、
能
よ
くも
神
かみ
の
誡命
いましめ
を
棄
す
つ。
10
即
すなは
ちモーセは「なんぢの
父󠄃
ちち
、なんぢの
母
はは
を
敬
うやま
へ」といひ「
父󠄃
ちち
また
母
はは
を
詈
のゝし
る
者
もの
は、
必
かなら
ず
殺
ころ
さるべし」といへり。
11
然
しか
るに
汝
なんぢ
らは「
人
ひと
もし
父󠄃
ちち
また
母
はは
にむかひ
我
わ
が
汝
なんぢ
に
對
たい
して
負󠄅
お
ふ
所󠄃
ところ
のものは、コルバン
即
すなは
ち
供物
そなへもの
なりと
言
い
はば
可
よ
し」と
言
い
ひて、
12
そののち
人
ひと
をして、
父󠄃
ちち
また
母
はは
に
事
つか
ふること
勿
なか
らしむ。
〘59㌻〙
81㌻
13
かく
汝
なんぢ
らの
傳
つた
へたる
言傳
いひつたへ
によりて、
神
かみ
の
言
ことば
を
空󠄃
むな
しうし、
又󠄂
また
おほく
此
こ
の
類
たぐひ
の
事
こと
をなしをるなり』
14
更
さら
に
群衆
ぐんじゅう
を
呼
よ
び
寄
よ
せて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
皆
みな
われに
聽
き
きて
悟
さと
れ。
15
外
そと
より
人
ひと
に
入
い
りて、
人
ひと
を
汚
けが
し
得
う
るものなし、
然
さ
れど
人
ひと
より
出
い
づるものは、これ
人
ひと
を
汚
けが
すなり』
16
[なし]《[*]》[*諸異本「聽く耳あるものは聽くべし」との句あり。]
17
イエス
群衆
ぐんじゅう
を
離
はな
れて
家
いへ
に
入
い
り
給
たま
ひしに、
弟子
でし
たち
其
そ
の
譬
たとへ
を
問
と
ふ。
18
彼
かれ
らに
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢらも
然
し
か
悟
さとり
なきか、
外
そと
より
人
ひと
に
入
い
る
物
もの
の、
人
ひと
を
汚
けが
しえぬを
悟
さと
らぬか、
19
これ
心
こゝろ
には
入
い
らず、
腹
はら
に
入
い
りて
厠
かはや
におつるなり』かく
凡
すべ
ての
食󠄃物
しょくもつ
を
潔󠄄
きよ
しとし
給
たま
へり。
20
また
言
い
ひたまふ『
人
ひと
より
出
い
づるものは、これ
人
ひと
を
汚
けが
すなり。
21
それ
內
うち
より、
人
ひと
の
心
こゝろ
より、
惡
あ
しき
念
おもひ
いづ、
即
すなは
ち
淫行
いんかう
・
竊盜
ぬすみ
・
殺人
ひとごろし
、
22
姦淫
かんいん
・
慳貪
むさぼり
・
邪曲
よこしま
・
詭計
たばかり
・
好色
かうしょく
・
嫉妬
ねたみ
・
誹謗
そしり
・
傲慢
がうまん
・
愚痴
ぐち
。
23
すべて
此
これ
等
ら
の
惡
あ
しき
事
こと
は
內
うち
より
出
い
でて
人
ひと
を
汚
けが
すなり』
24
イエス
起󠄃
た
ちて
此處
ここ
を
去
さ
り、ツロの
地方
ちはう
に
徃
ゆ
き、
家
いへ
に
入
い
りて
人
ひと
に
知
し
られじと
爲
し
給
たま
ひたれど、
隱
かく
るること
能
あた
はざりき。
25
爰
こゝ
に
穢
けが
れし
靈
れい
に
憑
つ
かれたる
稚
いとけ
なき
娘
むすめ
をもてる
女
をんな
、
直
ただ
ちにイエスの
事
こと
をきき、
來
きた
りて
御足
みあし
の
許
もと
に
平󠄃伏
ひれふ
す。
26
この
女
をんな
はギリシヤ
人
びと
にて、スロ・フェニキヤの
生
うまれ
なり。その
娘
むすめ
より
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
し
給
たま
はんことを
請󠄃
こ
ふ。
27
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『まづ
子供
こども
に
飽󠄄
あ
かしむべし、
子供
こども
のパンをとりて
小狗
こいぬ
に
投
な
げ
與
あた
ふるは
善
よ
からず』
28
女
をんな
こたへて
言
い
ふ『
然
しか
り
主
しゅ
よ、
食󠄃卓
しょくたく
の
下
した
の
小狗
こいぬ
も
小供
こども
の
食󠄃屑
たべくづ
を
食󠄃
くら
ふなり』
29
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢ
此
こ
の
言
ことば
によりて[
安
やす
んじ]
徃
ゆ
け、
惡鬼
あくき
は
旣
すで
に
娘
むすめ
より
出
い
でたり』
30
女
をんな
、
家
いへ
に
歸
かへ
りて
見
み
るに、
子
こ
は
寢臺
ねだい
の
上
うへ
に
臥
ふ
し、
惡鬼
あくき
は
旣
すで
に
出
い
でたり。
31
イエス
又󠄂
また
ツロの
地方
ちはう
を
去
さ
りて、シドンを
過󠄃
す
ぎ、デカポリスの
地方
ちはう
を
經
へ
て、ガリラヤの
海
うみ
に
來
きた
り
給
たま
ふ。
32
人々
ひとびと
、
耳聾
みゝしひ
にして
物
もの
言
い
ふこと
難
かた
き
者
もの
を
連
つ
れ
來
きた
りて、
之
これ
に
手
て
をおき
給
たま
はんことを
願
ねが
ふ。
82㌻
33
イエス
群衆
ぐんじゅう
の
中
なか
より、
彼
かれ
をひとり
連
つ
れ
出
いだ
し、その
兩耳
りゃうみゝ
に
指
ゆび
をさし
入
い
れ、また
唾
つばき
して
其
そ
の
舌
した
に
觸
さは
り、
34
天
てん
を
仰
あふ
ぎて
嘆
たん
じ、その
人
ひと
に
對
むか
ひて『エパタ』と
言
い
ひ
給
たま
ふ、ひらけよとの
意󠄃
こゝろ
なり。
35
斯
かく
てその
耳
みゝ
ひらけ、
舌
した
の
縺
もつれ
ただちに
解
と
け、
正
たゞ
しく
物
もの
いへり。
36
イエス
誰
たれ
にも
吿
つ
ぐなと
人々
ひとびと
を
戒
いまし
めたまふ。
然
さ
れど
戒
いまし
むるほど
反
かへ
つて
愈々
いよいよ
言
い
ひ
弘
ひろ
めたり。
37
また
甚
はなは
だしく
打驚
うちをどろ
きて
言
い
ふ『かれの
爲
な
しし
事
こと
は
皆
みな
よし、
聾者
みゝしひ
をも
聞
きこ
えしめ、
啞者
おふし
をも
物
もの
いはしむ』
〘60㌻〙
第8章
1
その
頃
ころ
また
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
にて
食󠄃
くら
ふべき
物
もの
なかりしかば、イエス
弟子
でし
たちを
召
め
して
言
い
ひ
給
たま
ふ、
2
『われ
此
こ
の
群衆
ぐんじゅう
を
憫
あはれ
む、
旣
すで
に
三日
みっか
われと
偕
とも
にをりて
食󠄃
くら
ふべき
物
もの
なし。
3
飢󠄄
う
ゑしままにて、
其
そ
の
家
いへ
に
歸
かへ
らしめば、
途󠄃
みち
にて
疲
つか
れ
果
は
てん。
其
そ
の
中
なか
には
遠󠄄
とほ
くより
來
きた
れる
者
もの
あり』
4
弟子
でし
たち
答
こた
へて
言
い
ふ『この
寂
さび
しき
地
ち
にては、
何處
いづこ
よりパンを
得
え
て、この
人々
ひとびと
を
飽󠄄
あ
かしむべき』
5
イエス
問
と
ひ
給
たま
ふ『パン
幾
いく
つあるか』
答
こた
へて『
七
なゝ
つ』といふ。
6
イエス
群衆
ぐんじゅう
に
命
めい
じて
地
ち
に
坐
ざ
せしめ、
七
なゝ
つのパンを
取
と
り、
謝
しゃ
して
之
これ
を
裂
さ
き、
弟子
でし
たちに
與
あた
へて
群衆
ぐんじゅう
の
前󠄃
まへ
におかしむ。
弟子
でし
たち
乃
すなは
ちその
前󠄃
まへ
におく。
7
また
小
ちひさ
き
魚
うを
すこしばかりあり、
祝
しく
して
之
これ
をも、その
前󠄃
まへ
におけと
言
い
ひ
給
たま
ふ。
8
人々
ひとびと
、
食󠄃
くら
ひて
飽󠄄
あ
き、
擘
さ
きたる
餘
あまり
を
拾
ひろ
ひしに、
七
なゝ
つの
籃
かご
に
滿
み
ちたり。
9
その
人
ひと
おほよそ
四千
しせん
人
にん
なりき。イエス
彼
かれ
らを
歸
かへ
し、
10
直
たゞ
ちに
弟子
でし
たちと
共
とも
に
舟
ふね
に
乘
の
りて、ダルマヌタの
地方
ちはう
に
徃
ゆ
き
給
たま
へり。
11
パリサイ
人
びと
いで
來
きた
りて、イエスと
論
ろん
じはじめ、
之
これ
を
試
こゝろ
みて
天
てん
よりの
徴
しるし
をもとむ。
12
イエス
心
こゝろ
に
深
ふか
く
歎
たん
じて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なにゆゑ
今
いま
の
代
よ
は
徴
しるし
を
求
もと
むるか、
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
徴
しるし
は
今
いま
の
代
よ
に
斷
た
えて
與
あた
へられじ』
13
斯
かく
て
彼
かれ
らを
離
はな
れ、また
舟
ふね
に
乘
の
りて
彼方
かなた
に
徃
ゆ
き
給
たま
ふ。
83㌻
14
弟子
でし
たちパンを
携
たづさ
ふることを
忘
わす
れ、
舟
ふね
には
唯一
たゞひと
つの
他
ほか
パンなかりき。
15
イエス
彼
かれ
らを
戒
いまし
めて
言
い
ひたまふ『
愼
つゝし
みてパリサイ
人
びと
のパンだねと、ヘロデのパンだねとに
心
こゝろ
せよ』
16
弟子
でし
たち
互
たがひ
に、これはパン
無
な
き
故
ゆゑ
ならんと
語
かた
り
合
あ
ふ。
17
イエス
知
し
りて
言
い
ひたまふ『
何
なん
ぞパン
無
な
き
故
ゆゑ
ならんと
語
かた
り
合
あ
ふか、
未
いま
だ
知
し
らぬか、
悟
さと
らぬか、
汝
なんぢ
らの
心
こゝろ
なほ
鈍
にぶ
きか。
18
目
め
ありて
見
み
ぬか、
耳
みゝ
ありて
聽
き
かぬか。
又󠄂
また
なんぢら
思
おも
ひ
出
い
でぬか、
19
五
いつ
つのパンを
擘
さ
きて、
五
ご
千
せん
人
にん
に
與
あた
へし
時
とき
、その
餘
あまり
を
幾筐
いくかご
ひろひしか』
弟子
でし
たち
言
い
ふ『
十二
じふに
』
20
『
七
なゝ
つのパンを
擘
さ
きて
四千
しせん
人
にん
に
與
あた
へし
時
とき
、その
餘
あまり
を
幾籃
いくかご
ひろひしか』
弟子
でし
たち
言
い
ふ『
七
なゝ
つ』
21
イエス
言
い
ひたまふ『
未
いま
だ
悟
さと
らぬか』
22
彼
かれ
ら
遂󠄅
つひ
にベツサイダに
到
いた
る。
人々
ひとびと
、
盲人
めしひ
をイエスに
連
つ
れ
來
きた
りて、
觸
さは
り
給
たま
はんことを
願
ねが
ふ。
23
イエス
盲人
めしひ
の
手
て
をとりて、
村
むら
の
外
そと
に
連
つ
れ
徃
ゆ
き、その
目
め
に
唾
つばき
し、
御手
みて
をあてて『なにか
見
み
ゆるか』と
問
と
ひ
給
たま
へば、
24
見
み
上
あ
げて
言
い
ふ『
人
ひと
を
見
み
る、それは
樹
き
の
如
ごと
き
物
もの
の
步
ある
くが
見
み
ゆ』
25
また
御手
みて
をその
目
め
にあて
給
たま
へば、
視凝
みつ
めたるに、
癒󠄄
い
えて
凡
すべ
てのもの
明
あきら
かに
見
み
えたり。
〘61㌻〙
26
斯
かく
て『
村
むら
にも
入
い
るな』と
言
い
ひて、その
家
いへ
に
歸
かへ
し
給
たま
へり。
27
イエス
其
そ
の
弟子
でし
たちとピリポ・カイザリヤの
村々
むらむら
に
出
い
でゆき、
途󠄃
みち
にて
弟子
でし
たちに
問
と
ひて
言
い
ひたまふ『
人々
ひとびと
は
我
われ
を
誰
たれ
と
言
い
ふか』
28
答
こた
へて
言
い
ふ『バプテスマのヨハネ、
或
ある
人
ひと
はエリヤ、
或
ある
人
ひと
は
預言者
よげんしゃ
の
一人
ひとり
』
29
また
問
と
ひ
給
たま
ふ『なんぢらは
我
われ
を
誰
たれ
と
言
い
ふか』ペテロ
答
こた
へて
言
い
ふ『なんぢはキリストなり』
30
イエス
己
おの
がことを
誰
たれ
にも
吿
つ
ぐなと
彼
かれ
らを
戒
いまし
め
給
たま
ふ。
31
斯
かく
て
人
ひと
の
子
こ
の
必
かなら
ず
多
おほ
くの
苦難
くるしみ
をうけ、
長老
ちゃうらう
・
祭司長
さいしちゃう
・
學者
がくしゃ
らに
棄
す
てられ、かつ
殺
ころ
され、
三日
みっか
の
後
のち
に
甦
よみが
へるべき
事
こと
を
敎
をし
へはじめ、
84㌻
32
此
こ
の
事
こと
をあらはに
語
かた
り
給
たま
ふ。
爰
こゝ
にペテロ、イエスを
傍
かたへ
にひきて
戒
いまし
め
出
い
でたれば、
33
イエス
振反
ふりかへ
りて
弟子
でし
たちを
見
み
、ペテロを
戒
いまし
めて
言
い
ひ
給
たま
ふ『サタンよ、わが
後
うしろ
に
退󠄃
しりぞ
け、
汝
なんぢ
は
神
かみ
のことを
思
おも
はず、
反
かへ
つて
人
ひと
のことを
思
おも
ふ』
34
斯
かく
て
群衆
ぐんじゅう
を
弟子
でし
たちと
共
とも
に
呼
よ
び
寄
よ
せて
言
い
ひたまふ『
人
ひと
もし
我
われ
に
從
したが
ひ
來
きた
らんと
思
おも
はば、
己
おのれ
をすて、
己
おの
が
十字架
じふじか
を
負󠄅
お
ひて
我
われ
に
從
したが
へ。
35
己
おの
が
生命
いのち
を
救
すく
はんと
思
おも
ふ
者
もの
は、これを
失
うしな
ひ、
我
わ
が
爲
ため
また
福音󠄃
ふくいん
の
爲
ため
に
己
おの
が
生命
いのち
をうしなふ
者
もの
は、
之
これ
を
救
すく
はん。
36
人
ひと
、
全󠄃世界
ぜんせかい
を
贏
まう
くとも、
己
おの
が
生命
いのち
を
損
そん
せば、
何
なに
の
益
えき
あらん、
37
人
ひと
その
生命
いのち
の
代
しろ
に
何
なに
を
與
あた
へんや。
38
不義
ふぎ
なる、
罪
つみ
深
ふか
き
今
いま
の
代
よ
にて、
我
われ
または
我
わ
が
言
ことば
を
恥
は
づる
者
もの
をば、
人
ひと
の
子
こ
もまた、
父󠄃
ちち
の
榮光
えいくわう
をもて、
聖󠄄
せい
なる
御使
みつかひ
たちと
共
とも
に
來
きた
らん
時
とき
に
恥
は
づべし』
第9章
1
また
言
い
ひ
給
たま
ふ『まことに
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
此處
ここ
に
立
た
つ
者
もの
のうちに、
神
かみ
の
國
くに
の、
權能
ちから
をもて
來
きた
るを
見
み
るまでは、
死
し
を
味
あぢ
はぬ
者
もの
どもあり』
2
六日
むゆか
の
後
のち
、イエスただペテロ、ヤコブ、ヨハネのみを
率󠄃
ひ
きつれ、
人
ひと
を
避󠄃
さ
けて
高
たか
き
山
やま
に
登
のぼ
りたまふ。
斯
かく
て
彼
かれ
らの
前󠄃
まへ
にて
其
そ
の
狀
さま
かはり、
3
其
そ
の
衣
ころも
かがやきて
甚
はなは
だ
白
しろ
くなりぬ、
世
よ
の
晒布者
ぬのさらし
を
爲
な
し
得
え
ぬほど
白
しろ
し。
4
エリヤ、モーセともに
彼
かれ
らに
現
あらは
れて、イエスと
語
かた
りゐたり。
5
ペテロ
差出
さしい
でてイエスに
言
い
ふ『ラビ、
我
われ
らの
此處
ここ
に
居
を
るは
善
よ
し。われら
三
み
つの
廬
いほり
を
造󠄃
つく
り、
一
ひと
つを
汝
なんぢ
のため、
一
ひと
つをモーセのため、
一
ひと
つをエリヤのためにせん』
6
彼
かれ
等
ら
いたく
懼
おそ
れたれば、ペテロ
何
なに
と
言
い
ふべきかを
知
し
らざりしなり。
7
斯
かく
て
雲
くも
おこり、
彼
かれ
らを
覆
おほ
ふ。
雲
くも
より
聲
こゑ
出
い
づ『これは
我
わ
が
愛
いつく
しむ
子
こ
なり、
汝
なんぢ
ら
之
これ
に
聽
き
け』
8
弟子
でし
たち
急󠄃
いそ
ぎ
見囘
みまは
すに、イエスと
己
おのれ
らとの
他
ほか
には、はや
誰
たれ
も
見
み
えざりき。
85㌻
9
山
やま
をくだる
時
とき
、イエス
彼
かれ
らに、
人
ひと
の
子
こ
の、
死人
しにん
の
中
うち
より
甦
よみが
へるまでは、
見
み
しことを
誰
たれ
にも
語
かた
るなと
戒
いまし
め
給
たま
ふ。
〘62㌻〙
10
彼
かれ
ら
此
こ
の
言
ことば
を
心
こゝろ
にとめ『
死人
しにん
の
中
うち
より
甦
よみが
へる』とは、
如何
いか
なる
事
こと
ぞと
互
たがひ
に
論
ろん
じ
合
あ
ふ。
11
斯
かく
てイエスに
問
と
ひて
言
い
ふ『
學者
がくしゃ
たちは、
何
なに
故
ゆゑ
エリヤまづ
來
きた
るべしと
言
い
ふか』
12
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『
實
げ
にエリヤ
先
ま
づ
來
きた
りて、
萬
よろづ
の
事
こと
をあらたむ。さらば
人
ひと
の
子
こ
につき、
多
おほ
くの
苦難
くるしみ
を
受
う
け、かつ
蔑
なみ
せらるる
事
こと
の
錄
しる
されたるは
何
なに
ぞや。
13
されど
我
われ
なんぢらに
吿
つ
ぐ、エリヤは
旣
すで
に
來
きた
れり。
然
しか
るに
彼
かれ
に
就
つ
きて
錄
しる
されたる
如
ごと
く、
人々
ひとびと
心
こゝろ
のままに
之
これ
を
待
あしら
へり』
14
相
あひ
共
とも
に
弟子
でし
たちの
許
もと
に
來
きた
りて、
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
の
之
これ
を
環
めぐ
り、
學者
がくしゃ
たちの
之
これ
と
論
ろん
じゐたるを
見
み
給
たま
ふ。
15
群衆
ぐんじゅう
みなイエスを
見
み
るや
否
いな
や、いたく
驚
をどろ
き、
御許
みもと
に
走
はし
り
徃
ゆ
きて
禮
れい
をなせり。
16
イエス
問
と
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
何
なに
を
彼
かれ
らと
論
ろん
ずるか』
17
群衆
ぐんじゅう
のうちの
一人
ひとり
こたふ『
師
し
よ、
啞
おふし
の
靈
れい
に
憑
つ
かれたる
我
わ
が
子
こ
を
御許
みもと
に
連
つ
れ
來
きた
れり。
18
靈
れい
いづこにても
彼
かれ
に
憑
つ
けば、
痙攣
ひきつ
け
泡
あわ
をふき、
齒
は
をくひしばり、
而
しか
して
痩
や
せ
衰
おとろ
ふ。
御弟子
みでし
たちに
之
これ
を
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
すことを
請󠄃
こ
ひたれど
能
あた
はざりき』
19
爰
こゝ
に
彼
かれ
らに
言
い
ひ
給
たま
ふ『ああ
信
しん
なき
代
よ
なるかな、
我
われ
いつまで
汝
なんぢ
らと
偕
とも
にをらん、
何時
いつ
まで
汝
なんぢ
らを
忍󠄄
しの
ばん。その
子
こ
を
我
わ
が
許
もと
に
連
つ
れきたれ』
20
乃
すなは
ち
連
つ
れきたる。
彼
かれ
イエスを
見
み
しとき、
靈
れい
ただちに
之
これ
を
痙攣
ひきつ
けたれば、
地
ち
に
倒
たふ
れ、
泡
あわ
をふきて
轉
ころ
び
迴
まは
る。
21
イエスその
父󠄃
ちち
に
問
と
ひ
給
たま
ふ『いつの
頃
ころ
より
斯
か
くなりしか』
父󠄃
ちち
いふ『をさなき
時
とき
よりなり。
22
靈
れい
しばしば
彼
かれ
を
火
ひ
のなか
水
みづ
の
中
なか
に
投
な
げ
入
い
れて
亡
ほろぼ
さんとせり。
然
さ
れど
汝
なんぢ
なにか
爲
な
し
得
え
ば、
我
われ
らを
憫
あはれ
みて
助
たす
け
給
たま
へ』
23
イエス
言
い
ひたまふ『
爲
な
し
得
え
ばと
言
い
ふか、
信
しん
ずる
者
もの
には、
凡
すべ
ての
事
こと
なし
得
え
らるるなり』
24
その
子
こ
の
父󠄃
ちち
ただちに
叫
さけ
びて
言
い
ふ『われ
信
しん
ず、
信仰
しんかう
なき
我
われ
を
助
たす
け
給
たま
へ』
25
イエス
群衆
ぐんじゅう
の
走
はし
り
集
あつま
るを
見
み
て、
穢
けが
れし
靈
れい
を
禁
いまし
めて
言
い
ひたまふ『
啞
おふし
にて
耳聾
みゝしひ
なる
靈
れい
よ、
我
われ
なんぢに
命
めい
ず、この
子
こ
より
出
い
でよ、
重
かさ
ねて
入
い
るな』
86㌻
26
靈
れい
さけびて
甚
はなは
だしく
痙攣
ひきつ
けさせて
出
い
でしに、その
子
こ
、
死人
しにん
の
如
ごと
くなりたれば、
多
おほ
くの
者
もの
これを
死
し
にたりと
言
い
ふ。
27
イエスその
手
て
を
執
と
りて
起󠄃
おこ
し
給
たま
へば
立
た
てり。
28
イエス
家
いへ
に
入
い
り
給
たま
ひしとき、
弟子
でし
たち
竊
ひそか
に
問
と
ふ『
我等
われら
いかなれば
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
し
得
え
ざりしか』
29
答
こた
へ
給
たま
ふ『この
類
たぐひ
は《[*]》
祈
いのり
に
由
よ
らざれば、
如何
いか
にすとも
出
い
でざるなり』[*異本「祈と斷食󠄃とに由らざれば」とあり。]
30
此處
ここ
を
去
さ
りて、ガリラヤを
過󠄃
す
ぐ。イエス
人
ひと
の
此
こ
の
事
こと
を
知
し
るを
欲
ほっ
し
給
たま
はず。
31
これは
弟子
でし
たちに
敎
をしへ
をなし、かつ『
人
ひと
の
子
こ
は
人々
ひとびと
の
手
て
にわたされ、
人々
ひとびと
これを
殺
ころ
し、
殺
ころ
されて、
三日
みっか
ののち
甦
よみが
へるべし』と
言
い
ひ
給
たま
ふが
故
ゆゑ
なり。
〘63㌻〙
32
弟子
でし
たちはその
言
ことば
を
悟
さと
らず、また
問
と
ふ
事
こと
を
恐
おそ
れたり。
33
斯
かく
てカペナウムに
到
いた
る。イエス
家
いへ
に
入
い
りて、
弟子
でし
たちに
問
と
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
途󠄃
みち
すがら
何
なに
を
論
ろん
ぜしか』
34
弟子
でし
たち
默然
もくねん
たり、これは
途󠄃
みち
すがら、
誰
たれ
か
大
おほい
ならんと、
互
たがひ
に
爭
あらそ
ひたるに
因
よ
る。
35
イエス
坐
ざ
して、
十二
じふに
弟子
でし
を
呼
よ
び、
之
これ
に
言
い
ひたまふ『
人
ひと
もし
頭
かしら
たらんと
思
おも
はば、
凡
すべ
ての
人
ひと
の
後
しりへ
となり、
凡
すべ
ての
人
ひと
の
役者
えきしゃ
となるべし』
36
斯
かく
てイエス
幼兒
をさなご
をとりて
彼
かれ
らの
中
なか
におき、
之
これ
を
抱
いだ
きて
言
い
ひ
給
たま
ふ、
37
『おほよそ
我
わ
が
名
な
のために
斯
かゝ
る
幼兒
をさなご
の
一人
ひとり
を
受
う
くる
者
もの
は、
我
われ
を
受
う
くるなり。
我
われ
を
受
う
くる
者
もの
は、
我
われ
を
受
う
くるにあらず、
我
われ
を
遣󠄃
つかは
しし
者
もの
を
受
う
くるなり』
38
ヨハネ
言
い
ふ『
師
し
よ、
我
われ
らに
從
したが
はぬ
者
もの
の、
御名
みな
によりて
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
すを
見
み
しが、
我
われ
らに
從
したが
はぬ
故
ゆゑ
に、
之
これ
を
止
とゞ
めたり』
39
イエス
言
い
ひたまふ『
止
とゞ
むな、
我
わ
が
名
な
のために
能力
ちから
ある
業
わざ
をおこなひ、
俄
にはか
に
我
われ
を
譏
そし
り
得
う
る
者
もの
なし。
40
我
われ
らに
逆󠄃
さから
はぬ
者
もの
は、
我
われ
らに
附
つ
く
者
もの
なり。
41
キリストの
者
もの
たるによりて、
汝
なんぢ
らに
一杯
いっぱい
の
水
みづ
を
飮
の
まする
者
もの
は、
我
われ
まことに
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
必
かなら
ずその
報
むくい
を
失
うしな
はざるべし。
87㌻
42
また
我
われ
を
信
しん
ずる
此
こ
の
小
ちひさ
き
者
もの
の
一人
ひとり
を
躓
つまづ
かする
者
もの
は、
寧
むし
ろ
大
おほい
なる
碾臼
ひきうす
を
頸
くび
に
懸
か
けられて、
海
うみ
に
投
な
げ
入
い
れられんかた
勝󠄃
まさ
れり。
43
もし
汝
なんぢ
の
手
て
なんぢを
躓
つまづ
かせば、
之
これ
を
切
き
り
去
さ
れ、
不具󠄄
かたは
にて
生命
いのち
に
入
い
るは、
兩手
りゃうて
ありて、ゲヘナの
消󠄃
き
えぬ
火
ひ
に
徃
ゆ
くよりも
勝󠄃
まさ
るなり。
44
[なし]《[*]》[*異本四四及び四六の二節に、この書の四八とおなじ句あり。]
45
もし
汝
なんぢ
の
足
あし
なんぢを
躓
つまづ
かせば、
之
これ
を
切
き
り
去
さ
れ、
蹇跛
あしなへ
にて
生命
いのち
に
入
い
るは、
兩足
りゃうあし
ありてゲヘナに
投
な
げ
入
い
れらるるよりも
勝󠄃
まさ
るなり。
46
[なし]
47
もし
汝
なんぢ
の
眼
め
なんぢを
躓
つまづ
かせば、
之
これ
を
拔
ぬ
き
出
いだ
せ、
片眼
かため
にて
神
かみ
の
國
くに
に
入
い
るは、
兩眼
りゃうめ
ありてゲヘナに
投
な
げ
入
い
れらるるよりも
勝󠄃
まさ
るなり。
48
「
彼處
かしこ
にては、その
蛆
うじ
つきず、
火
ひ
も
消󠄃
き
えぬなり」
49
それ
人
ひと
は、みな
火
ひ
をもて
鹽
しほ
つけらるべし。
50
鹽
しほ
は
善
よ
きものなり、
然
さ
れど
鹽
しほ
もし
其
そ
の
鹽
しほ
氣
け
を
失
うしな
はば、
何
なに
をもて
之
これ
に
味
あぢ
つけん。
汝
なんぢ
ら
心
こゝろ
の
中
うち
に
鹽
しほ
を
保
たも
ち、かつ
互
たがひ
に
和
やはら
ぐべし』
第10章
1
イエス
此處
ここ
をたちて、ユダヤの
地方
ちはう
およびヨルダンの
彼方
かなた
に
來
きた
り
給
たま
ひしに、
群衆
ぐんじゅう
またも
御許
みもと
に
集
つど
ひたれば、
常
つね
のごとく
敎
をし
へ
給
たま
ふ。
2
時
とき
にパリサイ
人
びと
ら
來
きた
り
試
こゝろ
みて
問
と
ふ『
人
ひと
その
妻
つま
を
出
いだ
すはよきか』
3
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『モーセは
汝
なんぢ
らに
何
なに
と
命
めい
ぜしか』
〘64㌻〙
4
彼
かれ
ら
言
い
ふ『モーセは
離緣狀
りえんじゃう
を
書
か
きて
出
いだ
すことを
許
ゆる
せり』
5
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『
汝
なんぢ
らの
心
こゝろ
、
無情󠄃
つれなき
によりて、
此
こ
の
誡命
いましめ
を
錄
しる
ししなり。
6
然
さ
れど
開闢
かいびゃく
の
初
はじめ
より「
人
ひと
を
男
をとこ
と
女
をんな
とに
造󠄃
つく
り
給
たま
へり」
7
「
斯
かゝ
る
故
ゆゑ
に
人
ひと
はその
父󠄃
ちち
母
はは
を
離
はな
れて、
8
二人
ふたり
のもの
一體
いったい
となるべし」
然
さ
ればはや
二人
ふたり
にはあらず、
一體
いったい
なり。
9
この
故
ゆゑ
に
神
かみ
の
合
あは
せ
給
たま
ふものは、
人
ひと
これを
離
はな
すべからず』
10
家
いへ
に
入
い
りて
弟子
でし
たち
復
また
この
事
こと
を
問
と
ふ。
11
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『おほよそ
其
そ
の
妻
つま
を
出
いだ
して、
他
ほか
に
娶
めと
る
者
もの
は、その
妻
つま
に
對
たい
して
姦淫
かんいん
を
行
おこな
ふなり。
12
また
妻
つま
もし
其
そ
の
夫
をっと
を
棄
す
てて
他
ほか
に
嫁
とつ
がば、
姦淫
かんいん
を
行
おこな
ふなり』
88㌻
13
イエスの
觸
さは
り
給
たま
はんことを
望󠄇
のぞ
みて、
人々
ひとびと
幼兒
をさなご
らを
連
つ
れ
來
きた
りしに、
弟子
でし
たち
禁
いまし
めたれば、
14
イエス
之
これ
を
見
み
、いきどほりて
言
い
ひたまふ『
幼兒
をさなご
らの
我
われ
に
來
きた
るを
許
ゆる
せ、
止
とゞ
むな、
神
かみ
の
國
くに
は
斯
かく
のごとき
者
もの
の
國
くに
なり。
15
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
凡
おほよ
そ
幼兒
をさなご
の
如
ごと
くに
神
かみ
の
國
くに
をうくる
者
もの
ならずば、
之
これ
に
入
い
ること
能
あた
はず』
16
斯
かく
て
幼兒
をさなご
を
抱
いだ
き、
手
て
をその
上
うへ
におきて
祝
しく
し
給
たま
へり。
17
イエス
途󠄃
みち
に
出
い
で
給
たま
ひしに、
一人
ひとり
はしり
來
きた
り
跪
ひざま
づきて
問
と
ふ『
善
よ
き
師
し
よ、
永遠󠄄
とこしへ
の
生命
いのち
を
嗣
つ
ぐためには、
我
われ
なにを
爲
な
すべきか』
18
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なにゆゑ
我
われ
を
善
よ
しと
言
い
ふか、
神
かみ
ひとりの
他
ほか
に
善
よ
き
者
もの
なし。
19
誡命
いましめ
は
汝
なんぢ
が
知
し
るところなり「
殺
ころ
すなかれ」「
姦淫
かんいん
するなかれ」「
盜
ぬす
むなかれ」「
僞證
ぎしょう
を
立
た
つるなかれ」
欺
あざむ
き
取
と
るなかれ「
汝
なんぢ
の
父󠄃
ちち
と
母
はは
とを
敬
うやま
へ」』
20
彼
かれ
いふ『
師
し
よ、われ
幼
おさな
き
時
とき
より
皆
みな
これを
守
まも
れり』
21
イエス
彼
かれ
に
目
め
をとめ、
愛
いつく
しみて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢ
尙
な
ほ
一
ひと
つを
缺
か
く、
徃
ゆ
きて
汝
なんぢ
の
有
も
てる
物
もの
を、ことごとく
賣
う
りて、
貧󠄃
まづ
しき
者
もの
に
施
ほどこ
せ、さらば
財寶
たから
を
天
てん
に
得
え
ん。
且
かつ
きたりて
我
われ
に
從
したが
へ』
22
この
言
ことば
によりて、
彼
かれ
は
憂
うれひ
を
催
もよほ
し、
悲
かな
しみつつ
去
さ
りぬ、
大
おほい
なる
資產
しさん
をもてる
故
ゆゑ
なり。
23
イエス
見囘
みまは
して
弟子
でし
たちに
言
い
ひたまふ『
富
とみ
ある
者
もの
の
神
かみ
の
國
くに
に
入
い
るは
如何
いか
に
難
かた
いかな』
24
弟子
でし
たち
此
こ
の
御言
みことば
に
驚
をどろ
く。イエスまた
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『
子
こ
たちよ、
神
かみ
の
國
くに
に
入
い
るは、
如何
いか
に
難
かた
いかな、
25
富
と
める
者
もの
の
神
かみ
の
國
くに
に
入
い
るよりは、
駱駝
らくだ
の
針
はり
の
孔
あな
を
通󠄃
とほ
るかた、
反
かへ
つて
易
やす
し』
26
弟子
でし
たち
甚
いた
く
驚
をどろ
きて
互
たがひ
に
言
い
ふ『さらば
誰
たれ
か
救
すく
はるる
事
こと
を
得
え
ん』
27
イエス
彼
かれ
らに
目
め
を
注
と
めて
言
い
ひたまふ『
人
ひと
には
能
あた
はねど、
神
かみ
には
然
しか
らず、
夫
そ
れ
神
かみ
は
凡
すべ
ての
事
こと
をなし
得
う
るなり』
89㌻
28
ペテロ、イエスに
對
むか
ひて『
我
われ
らは
一切
いっさい
をすてて
汝
なんぢ
に
從
したが
ひたり』と
言
い
ひ
出
い
でたれば、
29
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ、『まことに
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
我
わ
がため、
福音󠄃
ふくいん
のために、
或
あるひ
は
家
いへ
、
或
あるひ
は
兄弟
きゃうだい
、あるひは
姉妹
しまい
、
或
あるひ
は
父󠄃
ちち
、
或
あるひ
は
母
はは
、
或
あるひ
は
子
こ
、
或
あるひ
は
田畑
たはた
をすつる
者
もの
は、
〘65㌻〙
30
誰
たれ
にても
今
いま
、
今
いま
の
時
とき
に
百
ひゃく
倍
ばい
を
受
う
けぬはなし。
即
すなは
ち
家
いへ
・
兄弟
きゃうだい
・
姉妹
しまい
・
母
はは
・
子
こ
・
田畑
たはた
を
迫󠄃害󠄅
はくがい
と
共
とも
に
受
う
け、また
後
のち
の
世
よ
にては、
永遠󠄄
とこしへ
の
生命
いのち
を
受
う
けぬはなし。
31
然
さ
れど
多
おほ
くの
先
さき
なる
者
もの
は
後
あと
に、
後
あと
なる
者
もの
は
先
さき
になるべし』
32
エルサレムに
上
のぼ
る
途󠄃
みち
にて、イエス
先
さき
だち
徃
ゆ
き
給
たま
ひしかば、
弟子
でし
たち
驚
をどろ
き、
隨
したが
ひ
徃
ゆ
く
者
もの
ども
懼
おそ
れたり。イエス
再
ふたゝ
び
十二
じふに
弟子
でし
を
近󠄃
ちか
づけて、
己
おの
が
身
み
に
起󠄃
おこ
らんとする
事
こと
どもを
語
かた
り
出
い
で
給
たま
ふ
33
『
視
み
よ、
我
われ
らエルサレムに
上
あが
る。
人
ひと
の
子
こ
は
祭司長
さいしちゃう
・
學者
がくしゃ
らに
付
わた
されん。
彼
かれ
ら
死
し
に
定
さだ
めて、
異邦人
いはうじん
に
付
わた
さん。
34
異邦人
いはうじん
は
嘲弄
てうろう
し、
唾
つばき
し、
鞭
むちう
ち、
遂󠄅
つひ
に
殺
ころ
さん、
斯
かく
て
彼
かれ
は
三日
みっか
の
後
のち
に
甦
よみが
へるべし』
35
爰
こゝ
にゼベダイの
子
こ
ヤコブ、ヨハネ
御許
みもと
に
來
きた
りて
言
い
ふ『
師
し
よ、
願
ねがは
くは
我
われ
らが
何
なに
にても
求
もと
むる
所󠄃
ところ
を
爲
な
したまへ』
36
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『わが
汝
なんぢ
らに
何
なに
を
爲
な
さんことを
望󠄇
のぞ
むか』
37
彼
かれ
ら
言
い
ふ『なんぢの
榮光
えいくわう
の
中
うち
にて、
一人
ひとり
をその
右
みぎ
に、
一人
ひとり
をその
左
ひだり
に
坐
ざ
せしめ
給
たま
へ』
38
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢらは
求
もと
むる
所󠄃
ところ
を
知
し
らず、
汝
なんぢ
等
ら
わが
飮
の
む
酒杯
さかづき
を
飮
の
み、
我
わ
が
受
う
くるバプテスマを
受
う
け
得
う
るか』
39
彼
かれ
等
ら
いふ『
得
う
るなり』イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
我
わ
が
飮
の
む
酒杯
さかづき
を
飮
の
み、また
我
わ
が
受
う
くるバプテスマを
受
う
くべし。
40
然
さ
れど
我
わ
が
右
みぎ
左
ひだり
に
坐
ざ
することは、
我
われ
の
與
あた
ふべきものならず、ただ
備
そな
へられたる
人
ひと
こそ
與
あた
へらるるなれ』
41
十
じふ
人
にん
の
弟子
でし
これを
聞
き
き、ヤコブとヨハネとの
事
こと
により
憤
いきど
ほり
出
い
でたれば、
90㌻
42
イエス
彼
かれ
らを
呼
よ
びて
言
い
ひたまふ『
異邦人
いはうじん
の
君
きみ
と
認󠄃
みと
めらるる
者
もの
の、その
民
たみ
を
宰
つかさ
どり、
大
おほい
なる
者
もの
の、
民
たみ
の
上
うへ
に
權
けん
を
執
と
ることは、
汝
なんぢ
らの
知
し
る
所󠄃
ところ
なり。
43
然
さ
れど
汝
なんぢ
らの
中
うち
にては
然
しか
らず、
反
かへ
つて
大
おほい
ならんと
思
おも
ふ
者
もの
は、
汝
なんぢ
らの
役者
えきしゃ
となり、
44
頭
かしら
たらんと
思
おも
ふ
者
もの
は、
凡
すべ
ての
者
もの
の
僕
しもべ
となるべし。
45
人
ひと
の
子
こ
の
來
きた
れるも、
事
つか
へらるる
爲
ため
にあらず、
反
かへ
つて
事
つか
ふることをなし、
又󠄂
また
おほくの
人
ひと
の
贖償
あがなひ
として
己
おの
が
生命
いのち
を
與
あた
へん
爲
ため
なり』
46
斯
かく
て
彼
かれ
らエリコに
到
いた
る。イエスその
弟子
でし
たち
及
およ
び
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
と
共
とも
に、エリコを
出
い
でたまふ
時
とき
、テマイの
子
こ
バルテマイといふ
盲目
めしひ
の
乞食󠄃
こつじき
、
路
みち
の
傍
かたへ
に
坐
ざ
しをりしが、
47
ナザレのイエスなりと
聞
き
き、
叫
さけ
び
出
いだ
して
言
い
ふ『ダビデの
子
こ
イエスよ、
我
われ
を
憫
あはれ
みたまへ』
48
多
おほ
くの
人
ひと
かれを
禁
いまし
めて
默
もだ
さしめんとしたれど、
增々
ますます
叫
さけ
びて『ダビデの
子
こ
よ、
我
われ
を
憫
あはれ
みたまへ』と
言
い
ふ。
49
イエス
立
た
ち
止
どま
りて『かれを
呼
よ
べ』と
言
い
ひ
給
たま
へば、
人々
ひとびと
盲人
めしひ
を
呼
よ
びて
言
い
ふ『
心
こゝろ
安
やす
かれ、
起󠄃
た
て、なんぢを
呼
よ
びたまふ』
〘66㌻〙
50
盲人
めしひ
うはぎを
脫󠄁
ぬ
ぎ
捨
す
て、
躍󠄃
をど
り
上
あが
りて、イエスの
許
もと
に
來
きた
りしに、
51
イエス
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『わが
汝
なんぢ
に
何
なに
を
爲
な
さんことを
望󠄇
のぞ
むか』
盲人
めしひ
いふ『わが
師
し
よ、
見
み
えんことなり』
52
イエス
彼
かれ
に『ゆけ、
汝
なんぢ
の
信仰
しんかう
なんぢを
救
すく
へり』と
言
い
ひ
給
たま
へば、
直
たゞ
ちに
見
み
ることを
得
え
、イエスに
從
したが
ひて
途󠄃
みち
を
徃
ゆ
けり。
第11章
1
彼
かれ
らエルサレムに
近󠄃
ちか
づき、《[*]》オリブ
山
やま
の
麓
ふもと
なるベテパゲ
及
およ
びベタニヤに
到
いた
りし
時
とき
、イエス
二人
ふたり
の
弟子
でし
を
遣󠄃
つかは
さんとして
言
い
ひ
給
たま
ふ、[*奮譯「橄欖山」とあり。]
2
『むかひの
村
むら
にゆけ、
其處
そこ
に
入
い
らば、
頓
やが
て
人
ひと
の
未
いま
だ
乘
の
りたることなき
驢馬
ろば
の
子
こ
の
繋
つな
ぎあるを
見
み
ん、それを
解
と
きて
牽
ひ
き
來
きた
れ。
3
誰
たれ
かもし
汝
なんぢ
らに「なにゆゑ
然
しか
するか」と
言
い
はば「
主
しゅ
の
用
よう
なり、
彼
かれ
ただちに
返󠄄
かへ
さん」といへ』
4
弟子
でし
たち
徃
ゆ
きて、
門
もん
の
外
そと
の
路
みち
に
驢馬
ろば
の
子
こ
の
繋
つな
ぎあるを
見
み
て
解
と
きたれば、
91㌻
5
其處
そこ
に
立
た
つ
人々
ひとびと
のうちの
或
ある
者
もの
『なんぢら
驢馬
ろば
の
子
こ
を
解
と
きて
何
なに
とするか』と
言
い
ふ。
6
弟子
でし
たちイエスの
吿
つ
げ
給
たま
ひし
如
ごと
く
言
い
ひしに、
彼
かれ
ら
許
ゆる
せり。
7
斯
かく
て
弟子
でし
たち
驢馬
ろば
の
子
こ
をイエスの
許
もと
に
牽
ひ
ききたり、
己
おの
が
衣
ころも
をその
上
うへ
に
置
お
きたれば、イエス
之
これ
に
乘
の
り
給
たま
ふ。
8
多
おほ
くの
人
ひと
は
己
おの
が
衣
ころも
を、
或
ある
人
ひと
は
野
の
より
伐
き
り
取
と
りたる
樹
き
の
枝
えだ
を
途󠄃
みち
に
敷
し
く。
9
かつ
前󠄃
まへ
に
徃
ゆ
き
後
あと
に
從
したが
ふ
者
もの
ども
呼
よば
はりて
言
い
ふ『「《[*]》ホサナ、
讃
ほ
むべきかな、
主
しゅ
の
御名
みな
によりて
來
きた
る
者
もの
」[*「ホサナ」は「救あれ」との意󠄃なり。]
10
讃
ほ
むべきかな、
今
いま
し
來
きた
る
我
われ
らの
父󠄃
ちち
ダビデの
國
くに
。「いと
高
たか
き
處
ところ
にてホサナ」』
11
遂󠄅
つひ
にエルサレムに
到
いた
りて
宮
みや
に
入
い
り、
凡
すべ
ての
物
もの
を
見囘
みまは
し、
時
とき
はや
暮
くれ
に
及
およ
びたれば、
十二
じふに
弟子
でし
と
共
とも
にベタニヤに
出
い
で
徃
ゆ
きたまふ。
12
あくる
日
ひ
かれらベタニヤより
出
い
で
來
きた
りし
時
とき
、イエス
飢󠄄
う
ゑ
給
たま
ふ。
13
遙
はるか
に
葉
は
ある
無花果
いちぢく
の
樹
き
を
見
み
て、
果
み
をや
得
え
んと
其
そ
のもとに
到
いた
り
給
たま
ひしに、
葉
は
のほかに
何
なに
をも
見出
みいだ
し
給
たま
はず、
是
これ
は
無花果
いちぢく
の
時
とき
ならぬに
因
よ
る。
14
イエスその
樹
き
に
對
むか
ひて
言
い
ひたまふ『
今
いま
より
後
のち
いつまでも、
人
ひと
なんぢの
果
み
を
食󠄃
くら
はざれ』
弟子
でし
たち
之
これ
を
聞
き
けり。
15
彼
かれ
らエルサレムに
到
いた
る。イエス
宮
みや
に
入
い
り、その
內
うち
にて
賣買
うりかひ
する
者
もの
どもを
逐󠄃
お
ひ
出
いだ
し、
兩替
りゃうがへ
する
者
もの
の
臺
だい
、
鴿
はと
を
賣
う
るものの
腰掛
こしかけ
を
倒
たふ
し、
16
また
器物
うつは
を
持
も
ちて
宮
みや
の
內
うち
を
過󠄃
す
ぐることを
免
ゆる
し
給
たま
はず。
17
かつ
敎
をし
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『「わが
家
いへ
は、もろもろの
國人
くにびと
の
祈
いのり
の
家
いへ
と
稱
とな
へらるべし」と
錄
しる
されたるにあらずや、
然
しか
るに
汝
なんぢ
らは
之
これ
を「
强盜
がうたう
の
巢
す
」となせり』
18
祭司長
さいしちゃう
・
學者
がくしゃ
ら
之
これ
を
聞
き
き、
如何
いか
にしてかイエスを
亡
ほろぼ
さんと
謀
はか
る、それは
群衆
ぐんじゅう
みな
其
そ
の
敎
をしへ
に
驚
をどろ
きたれば、
彼
かれ
を
懼
おそ
れしなり。
〘67㌻〙
19
夕
ゆふべ
になる
每
ごと
に、イエス
弟子
でし
たちと
共
とも
に
都
みやこ
を
出
い
でゆき
給
たま
ふ。
92㌻
20
彼
かれ
ら
朝󠄃
あさ
早
はや
く
路
みち
をすぎしに、
無花果
いちぢく
の
樹
き
の
根
ね
より
枯
か
れたるを
見
み
る。
21
ペテロ
思
おも
ひ
出
いだ
して、イエスに
言
い
ふ『ラビ
見
み
給
たま
へ、
詛
のろ
ひ
給
たま
ひし
無花果
いちぢく
の
樹
き
は
枯
か
れたり』
22
イエス
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『
神
かみ
を
信
しん
ぜよ。
23
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
人
ひと
もし
此
こ
の
山
やま
に「
移
うつ
りて
海
うみ
に
入
い
れ」と
言
い
ふとも、
其
そ
の
言
い
ふところ
必
かなら
ず
成
な
るべしと
信
しん
じて、
心
こゝろ
に
疑
うたが
はずば、その
如
ごと
く
成
な
るべし。
24
この
故
ゆゑ
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
凡
すべ
て
祈
いの
りて
願
ねが
ふ
事
こと
は、すでに
得
え
たりと
信
しん
ぜよ、
然
さ
らば
得
う
べし。
25
また
立
た
ちて
祈
いの
るとき、
人
ひと
を
怨
うら
む
事
こと
あらば
免
ゆる
せ、これは
天
てん
に
在
いま
す
汝
なんぢ
らの
父󠄃
ちち
の、
汝
なんぢ
らの
過󠄃失
あやまち
を
免
ゆる
し
給
たま
はん
爲
ため
なり』
26
[なし]《[*]》[*異本「もし汝ら免さずば天に在す汝らの父󠄃も亦汝らの罪を免し給はじ」とあり。]
27
かれら
又󠄂
また
エルサレムに
到
いた
る。イエス
宮
みや
の
內
うち
を
步
あゆ
み
給
たま
ふとき、
祭司長
さいしちゃう
・
學者
がくしゃ
・
長老
ちゃうらう
たち
御許
みもと
に
來
きた
りて、
28
『
何
なに
の
權威
けんゐ
をもて
此
これ
等
ら
の
事
こと
をなすか、
誰
た
が
此
これ
等
ら
の
事
こと
を
爲
な
すべき
權威
けんゐ
を
授
さづ
けしか』と
言
い
ふ。
29
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『われ
一言
ひとこと
、なんぢらに
問
と
はん、
答
こた
へよ、
然
さ
らば
我
われ
も
何
なに
の
權威
けんゐ
をもて、
此
これ
等
ら
の
事
こと
を
爲
な
すかを
吿
つ
げん。
30
ヨハネのバプテスマは、
天
てん
よりか、
人
ひと
よりか、
我
われ
に
答
こた
へよ』
31
彼
かれ
ら
互
たがひ
に
論
ろん
じて
言
い
ふ『もし
天
てん
よりと
言
い
はば「
何
なに
故
ゆゑ
かれを
信
しん
ぜざりし」と
言
い
はん。
32
然
さ
れど
人
ひと
よりと
言
い
はんか……』
彼
かれ
ら
群衆
ぐんじゅう
を
恐
おそ
れたり、
人
ひと
みなヨハネを
實
じつ
に
預言者
よげんしゃ
と
認󠄃
みと
めたればなり。
33
遂󠄅
つひ
にイエスに
答
こた
へて『
知
し
らず』と
言
い
ふ。イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『われも
何
なに
の
權威
けんゐ
をもて
此
これ
等
ら
の
事
こと
を
爲
な
すか、
汝
なんぢ
らに
吿
つ
げじ』
第12章
1
イエス
譬
たとへ
をもて
彼
かれ
らに
語
かた
り
出
い
で
給
たま
ふ『ある
人
ひと
、
葡萄園
ぶだうぞの
を
造󠄃
つく
り、
籬
まがき
を
環
めぐ
らし、
酒槽
さかぶね
の
穴󠄄
あな
を
掘
ほ
り、
櫓
ものみ
をたて、
農夫
のうふ
どもに
貸
か
して、
遠󠄄
とほ
く
旅立
たびだち
せり。
2
時
とき
いたりて
農夫
のうふ
より
葡萄園
ぶだうぞの
の
所󠄃得
しょとく
を
受取
うけと
らんとて、
僕
しもべ
をその
許
もと
に
遣󠄃
つかは
ししに、
3
彼
かれ
ら
之
これ
を
執
とら
へて
打
う
ちたたき、
空󠄃手
むなで
にて
歸
かへ
らしめたり。
4
又󠄂
また
ほかの
僕
しもべ
を
遣󠄃
つかは
ししに、その
首
かうべ
に
傷
きず
つけ、かつ
辱
はづか
しめたり。
93㌻
5
また
他
ほか
の
者
もの
を
遣󠄃
つかは
ししに、
之
これ
を
殺
ころ
したり。
又󠄂
また
ほかの
多
おほ
くの
僕
しもべ
をも、
或
あるひ
は
打
う
ち
或
あるひ
は
殺
ころ
したり。
6
なほ
一人
ひとり
あり、
即
すなは
ち
其
そ
の
愛
いつく
しむ
子
こ
なり「わが
子
こ
は
敬
うやま
ふならん」と
言
い
ひて、
最後
いやはて
に
之
これ
を
遣󠄃
つかは
ししに、
〘68㌻〙
7
かの
農夫
のうふ
ども
互
たがひ
に
言
い
ふ「これは
世嗣
よつぎ
なり、いざ
之
これ
を
殺
ころ
さん、
然
さ
らばその
嗣業
しげふ
は、
我
われ
らのものとなるべし」
8
乃
すなは
ち
執
とら
へて
之
これ
を
殺
ころ
し、
葡萄園
ぶだうぞの
の
外
そと
に
投
な
げ
棄
す
てたり。
9
然
さ
らば
葡萄園
ぶだうぞの
の
主
ぬし
、なにを
爲
な
さんか、
來
きた
りて
農夫
のうふ
どもを
亡
ほろぼ
し、
葡萄園
ぶだうぞの
を
他
ほか
の
者
もの
どもに
與
あた
ふべし。
10
汝
なんぢ
ら
聖󠄄書
せいしょ
に 「
造󠄃家者
いへつくり
らの
棄
す
てたる
石
いし
は、 これぞ
隅
すみ
の
首石
おやいし
となれる。
11
これ
主
しゅ
によりて
成
な
れるにて、
我
われ
らの
目
め
には
奇
くす
しきなり」とある
句
く
をすら
讀
よ
まぬか』
12
ここに
彼
かれ
等
ら
イエスを
執
とら
へんと
思
おも
ひたれど、
群衆
ぐんじゅう
を
恐
おそ
れたり、この
譬
たとへ
の
己
おのれ
らを
指
さ
して
言
い
ひ
給
たま
へるを
悟
さと
りしに
因
よ
る。
遂󠄅
つひ
にイエスを
離
はな
れて
去
さ
り
徃
ゆ
けり。
13
かくて
彼
かれ
らイエスの
言尾
ことばじり
をとらへて
陷入
おとしい
れん
爲
ため
に、パリサイ
人
びと
とヘロデ
黨
たう
との
中
うち
より、
數人
すにん
を
御許
みもと
に
遣󠄃
つかは
す。
14
その
者
もの
ども
來
きた
りて
言
い
ふ『
師
し
よ、
我
われ
らは
知
し
る、
汝
なんぢ
は
眞
まこと
にして、
誰
たれ
をも
憚
はゞか
りたまふ
事
こと
なし、
人
ひと
の
外貌
うはべ
を
見
み
ず、
眞
まこと
をもて
神
かみ
の
道󠄃
みち
を
敎
をし
へ
給
たま
へばなり。
我
われ
ら
貢
みつぎ
をカイザルに
納󠄃
をさ
むるは、
宜
よ
きか、
惡
あ
しきか、
納󠄃
をさ
めんか、
納󠄃
をさ
めざらんか』
15
イエス
其
そ
の
詐僞
いつはり
なるを
知
し
りて『なんぞ
我
われ
を
試
こゝろ
むるか、デナリを
持
も
ち
來
きた
りて
我
われ
に
見
み
せよ』と
言
い
ひ
給
たま
へば、
16
彼
かれ
ら
持
も
ち
來
きた
る。イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『これは
誰
たれ
の
像
かたち
、たれの
號
しるし
なるか』『カイザルのなり』と
答
こた
ふ。
17
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『カイザルの
物
もの
はカイザルに、
神
かみ
の
物
もの
は
神
かみ
に
納󠄃
をさ
めよ』
彼
かれ
らイエスに
就
つ
きて
甚
はなは
だ
怪
あや
しめり。
18
また
復活
よみがへり
なしと
云
い
ふサドカイ
人
びと
ら、イエスに
來
きた
り
問
と
ひて
言
い
ふ
19
『
師
し
よ、モーセは、
人
ひと
の
兄弟
きゃうだい
もし
子
こ
なく
妻
つま
を
遺󠄃
のこ
して
死
し
なば、その
兄弟
きゃうだい
、かれの
妻
つま
を
娶
めと
りて、
兄弟
きゃうだい
のため
嗣子
よつぎ
を
擧
あ
ぐべしと、
我
われ
らに
書
か
き
遺󠄃
のこ
したり。
94㌻
20
爰
こゝ
に
七人
しちにん
の
兄弟
きゃうだい
ありて、
兄
あに
、
妻
つま
を
娶
めと
り、
嗣子
よつぎ
なくして
死
し
に、
21
第二
だいに
の
者
もの
その
女
をんな
を
娶
めと
り、また
嗣子
よつぎ
なくして
死
し
に、
第三
だいさん
の
者
もの
もまた
然
しか
なし、
22
七人
しちにん
とも
嗣子
よつぎ
なくして
死
し
に、
終󠄃
つひ
には
其
そ
の
女
をんな
も
死
し
にたり。
23
復活
よみがへり
のとき《[*]》
彼
かれ
らみな
甦
よみが
へらんに、この
女
をんな
は
誰
たれ
の
妻
つま
たるべきか、
七人
しちにん
これを
妻
つま
としたればなり』[*諸異本「彼らみな甦へらんに」の句なし。]
24
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢらの
誤
あやま
れるは、
聖󠄄書
せいしょ
をも、
神
かみ
の
能力
ちから
をも、
知
し
らぬ
故
ゆゑ
ならずや。
25
人
ひと
、
死人
しにん
の
中
うち
より
甦
よみが
へる
時
とき
は、
娶
めと
らず、
嫁
とつ
がず、
天
てん
に
在
あ
る
御使
みつかひ
たちの
如
ごと
くなるなり。
26
死
し
にたる
者
もの
の
甦
よみが
へる
事
こと
に
就
つ
きては、モーセの
書
ふみ
の
中
なか
なる
柴
しば
の
條
くだり
に、
神
かみ
モーセに「われはアブラハムの
神
かみ
、イサクの
神
かみ
、ヤコブの
神
かみ
なり」と
吿
つ
げ
給
たま
ひし
事
こと
あるを、
未
いま
だ
讀
よ
まぬか。
〘69㌻〙
27
神
かみ
は
死
し
にたる
者
もの
の
神
かみ
にあらず、
生
い
ける
者
もの
の
神
かみ
なり。なんぢら
大
おほい
に
誤
あやま
れり』
28
學者
がくしゃ
の
一人
ひとり
、かれらの
論
ろん
じをるを
聞
き
き、イエスの
善
よ
く
答
こた
へ
給
たま
へるを
知
し
り、
進󠄃
すゝ
み
出
い
でて
問
と
ふ『すべての
誡命
いましめ
のうち、
何
なに
か
第一
だいいち
なる』
29
イエス
答
こた
へたまふ『
第一
だいいち
は
是
これ
なり「イスラエルよ
聽
き
け、
主
しゅ
なる
我
われ
らの
神
かみ
は
唯一
ゆゐいつ
の
主
しゅ
なり。
30
なんぢ
心
こゝろ
を
盡
つく
し、
精神
せいしん
を
盡
つく
し、
思
おもひ
を
盡
つく
し、
力
ちから
を
盡
つく
して、
主
しゅ
なる
汝
なんぢ
の
神
かみ
を
愛
あい
すべし」
31
第二
だいに
は
是
これ
なり「おのれの
如
ごと
く
汝
なんぢ
の
隣
となり
を
愛
あい
すべし」
此
こ
の
二
ふた
つより
大
おほい
なる
誡命
いましめ
はなし』
32
學者
がくしゃ
いふ『
善
よ
きかな
師
し
よ「
神
かみ
は
唯一
ゆゐいつ
にして
他
ほか
に
神
かみ
なし」と
言
い
ひ
給
たま
へるは
眞
まこと
なり。
33
「こころを
盡
つく
し、
知慧󠄄
ちゑ
を
盡
つく
し、
力
ちから
を
盡
つく
して
神
かみ
を
愛
あい
し、また
己
おのれ
のごとく
隣
となり
を
愛
あい
する」は、もろもろの
燔祭
はんさい
および
犧牲
いけにへ
に
勝󠄃
まさ
るなり』
34
イエスその
聰
さと
く
答
こた
へしを
見
み
て
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢ
神
かみ
の
國
くに
に
遠󠄄
とほ
からず』
此
こ
の
後
のち
たれも
敢
あへ
てイエスに
問
と
ふ
者
もの
なかりき。
35
イエス
宮
みや
にて
敎
をし
ふるとき、
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なにゆゑ
學者
がくしゃ
らはキリストをダビデの
子
こ
と
言
い
ふか。
95㌻
36
ダビデ
聖󠄄
せい
靈
れい
に
感
かん
じて
自
みづか
らいへり 「
主
しゅ
わが
主
しゅ
に
言
い
ひ
給
たま
ふ、
我
われ
なんぢの
敵
てき
を
汝
なんぢ
の
足
あし
の
下
した
に
置
お
くまでは、
我
わ
が
右
みぎ
に
坐
ざ
せよ」と。
37
ダビデ
自
みづか
ら
彼
かれ
を
主
しゅ
と
言
い
ふ、されば
爭
いか
でその
子
こ
ならんや』
大
おほい
なる
群衆
ぐんじゅう
は
喜
よろこ
びてイエスに
聽
き
きたり。
38
イエスその
敎
をしへ
のうちに
言
い
ひたまふ『
學者
がくしゃ
らに
心
こゝろ
せよ、
彼
かれ
らは
長
なが
き
衣
ころも
を
著
き
て
步
あゆ
むこと、
市場
いちば
にての
敬禮
けいれい
、
39
會堂
くわいだう
の
上座
じゃうざ
、
饗宴
ふるまひ
の
上席
じゃうせき
を
好
この
み、
40
また
寡婦󠄃
やもめ
らの
家
いへ
を
呑
の
み、
外見
みえ
をつくりて
長
なが
き
祈
いのり
をなす。その
受
う
くる
審判󠄄
さばき
は
更
さら
に
嚴
きび
しからん』
41
イエス
賽錢函
さいせんばこ
に
對
むか
ひて
坐
ざ
し、
群衆
ぐんじゅう
の
錢
ぜに
を
賽錢函
さいせんばこ
に
投
な
げ
入
い
るるを
見
み
給
たま
ふ。
富
と
める
多
おほ
くの
者
もの
は、
多
おほ
く
投
な
げ
入
い
れしが、
42
一人
ひとり
の
貧󠄃
まづ
しき
寡婦󠄃
やもめ
きたりて、レプタ
二
ふた
つを
投
な
げ
入
い
れたり、
即
すなは
ち
五
ご
厘
りん
ほどなり。
43
イエス
弟子
でし
たちを
呼
よ
び
寄
よ
せて
言
い
ひ
給
たま
ふ『まことに
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、この
貧󠄃
まづ
しき
寡婦󠄃
やもめ
は、
賽錢函
さいせんばこ
に
投
な
げ
入
い
るる
凡
すべ
ての
人
ひと
よりも
多
おほ
く
投
な
げ
入
い
れたり。
44
凡
すべ
ての
者
もの
は、その
豐
ゆたか
なる
內
うち
よりなげ
入
い
れ、この
寡婦󠄃
やもめ
は
其
そ
の
乏
とも
しき
中
なか
より、
凡
すべ
ての
所󠄃有
もちもの
、
即
すなは
ち
己
おの
が
生命
いのち
の
料
しろ
をことごとく
投
な
げ
入
い
れたればなり』
第13章
1
イエス
宮
みや
を
出
い
で
給
たま
ふとき、
弟子
でし
の
一人
ひとり
いふ『
師
し
よ、
見
み
給
たま
へ、これらの
石
いし
、これらの
建造󠄃物
たてもの
、いかに
盛
さかん
ならずや』
2
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢ
此
これ
等
ら
の
大
おほい
なる
建造󠄃物
たてもの
を
見
み
るか、
一
ひと
つの
石
いし
も
崩󠄃
くづ
されずしては
石
いし
の
上
うへ
に
殘
のこ
らじ』
〘70㌻〙
3
オリブ
山
やま
にて
宮
みや
の
方
かた
に
對
むか
ひて
坐
ざ
し
給
たま
へるに、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレ
竊
ひそか
に
問
と
ふ
4
『われらに
吿
つ
げ
給
たま
へ、これらの
事
こと
は
何時
いつ
あるか、
又󠄂
また
すべて
此
これ
等
ら
の
事
こと
の
成
な
し
遂󠄅
と
げられんとする
時
とき
は、
如何
いか
なる
兆
しるし
あるか』
5
イエス
語
かた
り
出
い
で
給
たま
ふ『なんぢら
人
ひと
に
惑
まどは
されぬやうに
心
こゝろ
せよ。
96㌻
6
多
おほ
くの
者
もの
わが
名
な
を
冐
をか
し
來
きた
り「われは
夫
それ
なり」と
言
い
ひて
多
おほ
くの
人
ひと
を
惑
まどは
さん。
7
戰爭
いくさ
と
戰爭
いくさ
の
噂
うはさ
とを
聞
き
くとき
懼
おそ
るな、
斯
かゝ
る
事
こと
はあるべきなり、
然
さ
れど
未
いま
だ
終󠄃
をはり
にはあらず。
8
即
すなは
ち「
民
たみ
は
民
たみ
に、
國
くに
は
國
くに
に
逆󠄃
さから
ひて
起󠄃
た
たん」また
處々
ところどころ
に
地震
ぢしん
あり、
饑饉
ききん
あらん、これらは
產
うみ
の
苦難
くるしみ
の
始
はじめ
なり。
9
汝
なんぢ
等
ら
みづから
心
こゝろ
せよ、
人々
ひとびと
なんぢらを
衆議所󠄃
しゅうぎしょ
に
付
わた
さん。なんぢら
會堂
くわいだう
に
曵
ひ
かれて
打
う
たれ、
且
かつ
わが
故
ゆゑ
によりて、
司
つかさ
たち
及
およ
び
王
わう
たちの
前󠄃
まへ
に
立
た
てられん、これは
證
あかし
をなさん
爲
ため
なり。
10
斯
かく
て
福音󠄃
ふくいん
は
先
まづ
もろもろの
國人
くにびと
に
宣傳
のべつた
へらるべし。
11
人々
ひとびと
なんぢらを
曵
ひ
きて
付
わた
さんとき、
何
なに
を
言
い
はんと
預
あらか
じめ
思
おも
ひ
煩
わづら
ふな、
唯
たゞ
そのとき
授
さづ
けらるることを
言
い
へ、これ
言
い
ふ
者
もの
は
汝
なんぢ
等
ら
にあらず
聖󠄄
せい
靈
れい
なり。
12
兄弟
きゃうだい
は
兄弟
きゃうだい
を、
父󠄃
ちち
は
子
こ
を
死
し
にわたし、
子
こ
らは
親
おや
たちに
逆󠄃
さから
ひ
立
た
ちて
死
し
なしめん。
13
又󠄂
また
なんぢら
我
わ
が
名
な
の
故
ゆゑ
に
凡
すべ
ての
人
ひと
に
憎
にく
まれん、
然
さ
れど
終󠄃
をはり
まで
耐
た
へ
忍󠄄
しの
ぶ
者
もの
は
救
すく
はるべし。
14
「
荒
あら
す
惡
にく
むべき
者
もの
」の
立
た
つべからざる
所󠄃
ところ
に
立
た
つを
見
み
ば(
讀
よ
むもの
悟
さと
れ)その
時
とき
ユダヤにをる
者
もの
どもは、
山
やま
に
遁
のが
れよ。
15
屋
や
の
上
うへ
にをる
者
もの
は、
內
うち
に
下
くだ
るな。また
家
いへ
の
物
もの
を
取
と
り
出
いだ
さんとて
內
うち
に
入
い
るな。
16
畑
はた
にをる
者
もの
は
上衣
うはぎ
を
取
と
らんとて
歸
かへ
るな。
17
其
そ
の
日
ひ
には
孕
みごも
りたる
女
をんな
と、
乳󠄃
ちゝ
を
哺
の
まする
女
をんな
とは
禍害󠄅
わざはひ
なるかな。
18
この
事
こと
の、
冬
ふゆ
おこらぬやうに
祈
いの
れ、
19
その
日
ひ
は
患難
なやみ
の
日
ひ
なればなり。
神
かみ
の
萬物
ばんぶつ
を
造󠄃
つく
り
給
たま
ひし
開闢
かいびゃく
より
今
いま
に
至
いた
るまで、
斯
かゝ
る
患難
なやみ
はなく、また
後
のち
にもなからん。
20
主
しゅ
その
日
ひ
を
少
すくな
くし
給
たま
はずば、
救
すく
はるる
者
もの
、
一人
ひとり
だになからん。
然
さ
れど
其
そ
の
選󠄄
えら
び
給
たま
ひし
選󠄄民
せんみん
の
爲
ため
に、その
日
ひ
を
少
すくな
くし
給
たま
へり。
21
其
そ
の
時
とき
なんぢらに「
視
み
よ、キリスト
此處
ここ
にあり」「
視
み
よ、
彼處
かしこ
にあり」と
言
い
ふ
者
もの
ありとも
信
しん
ずな。
22
僞
にせ
キリスト・
僞
にせ
預言者
よげんしゃ
ら
起󠄃
おこ
りて、
徴
しるし
と
不思議
ふしぎ
とを
行
おこな
ひ、
爲
な
し
得
う
べくは、
選󠄄民
せんみん
をも
惑
まどは
さんとするなり。
97㌻
23
汝
なんぢ
らは
心
こゝろ
せよ、
預
あらか
じめ
之
これ
を
皆
みな
なんぢらに
吿
つ
げおくなり。
24
其
そ
の
時
とき
、その
患難
なやみ
ののち、
日
ひ
は
暗󠄃
くら
く、
月
つき
は
光
ひかり
を
發
はな
たず。
〘71㌻〙
25
星
ほし
は
空󠄃
そら
より
隕
お
ち、《[*]》
天
てん
にある
萬象
ばんしゃう
、
震
ふる
ひ
動
うご
かん。[*或は「天にある諸の勢力」と譯す。]
26
其
そ
のとき
人々
ひとびと
、
人
ひと
の
子
こ
の
大
おほい
なる
能力
ちから
と
榮光
えいくわう
とをもて、
雲
くも
に
乘
の
り
來
きた
るを
見
み
ん。
27
その
時
とき
かれは
使者
つかひ
たちを
遣󠄃
つかは
して、
地
ち
の
極
はて
より
天
てん
の
極
はて
まで、
四方
しはう
より、
其
そ
の
選󠄄民
せんみん
をあつめん。
28
無花果
いちぢく
の
樹
き
よりの
譬
たとへ
を
學
まな
べ、その
枝
えだ
すでに
柔
やはら
かくなりて
葉
は
芽
め
ぐめば、
夏
なつ
の
近󠄃
ちか
きを
知
し
る。
29
斯
かく
のごとく
此
これ
等
ら
のことの
起󠄃
おこ
るを
見
み
ば、《[*]》
人
ひと
の
子
こ
すでに
近󠄃
ちか
づきて
門邊
かどべ
にいたるを
知
し
れ。[*「人の子」或は「時」と譯す。]
30
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、これらの
事
こと
ことごとく
成
な
るまで、
今
いま
の
代
よ
は
過󠄃
す
ぎ
逝󠄃
ゆ
くことなし。
31
天
てん
地
ち
は
過󠄃
す
ぎゆかん、
然
さ
れど
我
わ
が
言
ことば
は
過󠄃
す
ぎ
逝󠄃
ゆ
くことなし。
32
その
日
ひ
その
時
とき
を
知
し
る
者
もの
なし。
天
てん
にある
使者
つかひ
たちも
知
し
らず、
子
こ
も
知
し
らず、ただ
父󠄃
ちち
のみ
知
し
り
給
たま
ふ。
33
心
こゝろ
して《[*]》
目
め
を
覺
さま
しをれ、
汝
なんぢ
等
ら
その
時
とき
の
何時
いつ
なるかを
知
し
らぬ
故
ゆゑ
なり。[*異本「目を覺し、かつ祈れ」とあり。]
34
例
たと
へば
家
いへ
を
出
い
づる
時
とき
その
僕
しもべ
どもに
權
けん
を
委
ゆだ
ねて、
各自
おのおの
の
務
つとめ
を
定
さだ
め、
更
さら
に
門守
かどもり
に、
目
め
を
覺
さま
しをれと、
命
めい
じ
置
お
きて
遠󠄄
とほ
く
旅立
たびだち
したる
人
ひと
のごとし。
35
この
故
ゆゑ
に
目
め
を
覺
さま
しをれ、
家
いへ
の
主人
あるじ
の
歸
かへ
るは、
夕
ゆふべ
か、
夜半󠄃
よなか
か、
鷄
にはとり
鳴
な
くころか、
夜明
よあけ
か、いづれの
時
とき
なるかを
知
し
らねばなり。
36
恐
おそ
らくは
俄
にはか
に
歸
かへ
りて、
汝
なんぢ
らの
眠
ねむ
れるを
見
み
ん。
37
わが
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐるは、
凡
すべ
ての
人
ひと
に
吿
つ
ぐるなり。
目
め
を
覺
さま
しをれ』
第14章
1
さて
過󠄃越
すぎこし
と
除酵
じょかう
との
祭
まつり
の
二日
ふつか
前󠄃
まへ
となりぬ。
祭司長
さいしちゃう
・
學者
がくしゃ
ら
詭計
たばかり
をもてイエスを
捕
とら
へ、かつ
殺
ころ
さんと
企
くはだ
てて
言
い
ふ
2
『
祭
まつり
の
間
あひだ
は
爲
な
すべからず、
恐
おそ
らくは
民
たみ
の
亂
らん
あるべし』
3
イエス、ベタニヤに
在
いま
して、
癩病人
らいびゃうにん
シモンの
家
いへ
にて
食󠄃事
しょくじ
の
席
せき
につき
居給
ゐたま
ふとき、
或
ある
女
をんな
、
價
あたひ
高
たか
き
混
まじり
なきナルドの
香
にほひ
油
あぶら
の
入
い
りたる
石膏
せきかう
の
壺
つぼ
を
持
も
ち
來
きた
り、その
壺
つぼ
を
毀
こぼ
ちてイエスの
首
かうべ
に
注
そゝ
ぎたり。
98㌻
4
ある
人々
ひとびと
、
憤
いきど
ほりて
互
たがひ
に
言
い
ふ『なに
故
ゆゑ
かく
濫
みだり
に
油
あぶら
を
費
つひや
すか、
5
この
油
あぶら
を
三
さん
百
ひゃく
デナリ
餘
あまり
に
賣
う
りて、
貧󠄃
まづ
しき
者
もの
に
施
ほどこ
すことを
得
え
たりしものを』
而
しか
して
甚
いた
く
女
をんな
を
咎
とが
む。
6
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『その
爲
な
すに
任
まか
せよ、
何
なん
ぞこの
女
をんな
を
惱
なやま
すか、
我
われ
に
善
よ
き
事
こと
をなせり。
7
貧󠄃
まづ
しき
者
もの
は、
常
つね
に
汝
なんぢ
らと
偕
とも
にをれば、
何時
いつ
にても
心
こゝろ
のままに
助
たす
け
得
う
べし、
然
さ
れど
我
われ
は
常
つね
に
汝
なんぢ
らと
偕
とも
にをらず。
8
此
こ
の
女
をんな
は、なし
得
う
る
限
かぎり
をなして、
我
わ
が
體
からだ
に
香
にほひ
油
あぶら
をそそぎ、
預
あらか
じめ
葬
はうむ
りの
備
そなへ
をなせり。
9
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
全󠄃世界
ぜんせかい
、
何處
いづこ
にても、
福音󠄃
ふくいん
の
宣傅
のべつた
へらるる
處
ところ
には、この
女
をんな
の
爲
な
しし
事
こと
も
記念
きねん
として
語
かた
らるべし』
〘72㌻〙
10
爰
こゝ
に
十二
じふに
弟子
でし
の
一人
ひとり
なるイスカリオテのユダ、イエスを
賣
う
らんとて
祭司長
さいしちゃう
の
許
もと
にゆく。
11
彼
かれ
等
ら
これを
聞
き
きて
喜
よろこ
び、
銀
かね
を
與
あた
へんと
約
やく
したれば、ユダ
如何
いか
にしてか
機
をり
好
よ
くイエスを
付
わた
さんと
謀
はか
る。
12
除酵祭
じょかうさい
の
初
はじめ
の
日
ひ
、
即
すなは
ち
過󠄃越
すぎこし
の
羔羊
こひつじ
を
屠
ほふ
るべき
日
ひ
、
弟子
でし
たちイエスに
言
い
ふ『
過󠄃越
すぎこし
の
食󠄃
しょく
をなし
給
たま
ふために、
我
われ
らが
何處
いづこ
に
徃
ゆ
きて
備
そな
ふることを
望󠄇
のぞ
み
給
たま
ふか』
13
イエス
二人
ふたり
の
弟子
でし
を
遣󠄃
つかは
さんとして
言
い
ひたまふ『
都
みやこ
に
徃
ゆ
け、
然
さ
らば
水
みづ
をいれたる
瓶
かめ
を
持
も
つ
人
ひと
、なんぢらに
遇󠄃
あ
ふべし。
之
これ
に
從
したが
ひ
徃
ゆ
き、
14
その
入
い
る
所󠄃
ところ
の
家主
いへあるじ
に「
師
し
いふ、われ
弟子
でし
らと
共
とも
に
過󠄃越
すぎこし
の
食󠄃
しょく
を
爲
な
すべき
座敷
ざしき
は
何處
いづこ
なるか」と
言
い
へ。
15
然
さ
らば
調
とゝの
へ
備
そな
へたる
大
おほい
なる
二階
にかい
座敷
ざしき
を
見
み
すべし。
其處
そこ
に
我
われ
らのために
備
そな
へよ』
16
弟子
でし
たち
出
い
で
徃
ゆ
きて
都
みやこ
に
入
い
り、イエスの
言
い
ひ
給
たま
ひし
如
ごと
くなるを
見
み
て
過󠄃越
すぎこし
の
設備
そなへ
をなせり。
17
日
ひ
暮
く
れてイエス
十二
じふに
弟子
でし
とともに
徃
ゆ
き、
18
みな
席
せき
に
就
つ
きて
食󠄃
しょく
するとき
言
い
ひ
給
たま
ふ『まことに
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
我
われ
と
共
とも
に
食󠄃
しょく
する
汝
なんぢ
らの
中
うち
の
一人
ひとり
、われを
賣
う
らん』
99㌻
19
弟子
でし
たち
憂
うれ
ひて
一人
ひとり
一人
ひとり
『われなるか』と
言
い
ひ
出
い
でしに、
20
イエス
言
い
ひたまふ『
十二
じふに
のうちの
一人
ひとり
にて
我
われ
と
共
とも
にパンを
鉢
はち
に
浸
ひた
す
者
もの
は
夫
それ
なり。
21
實
げ
に
人
ひと
の
子
こ
は
己
おのれ
に
就
つ
きて
錄
しる
されたる
如
ごと
く
逝󠄃
ゆ
くなり。
然
さ
れど
人
ひと
の
子
こ
を
賣
う
る
者
もの
は
禍害󠄅
わざはひ
なるかな、その
人
ひと
は
生
うま
れざりし
方
かた
よかりしものを』
22
彼
かれ
ら
食󠄃
しょく
しをる
時
とき
、イエス、パンを
取
と
り、
祝
しく
してさき、
弟子
でし
たちに
與
あた
へて
言
い
ひたまふ『
取
と
れ、これは
我
わ
が
體
からだ
なり』
23
また
酒杯
さかづき
を
取
と
り、
謝
しゃ
して
彼
かれ
らに
與
あた
へ
給
たま
へば、
皆
みな
この
酒杯
さかづき
より
飮
の
めり。
24
また
言
い
ひ
給
たま
ふ『これは
契約
けいやく
の
我
わ
が
血
ち
、おほくの
人
ひと
の
爲
ため
に
流
なが
す
所󠄃
ところ
のものなり。
25
誠
まこと
に
汝
なんぢ
らに
吿
つ
ぐ、
神
かみ
の
國
くに
にて
新
あたら
しきものを
飮
の
む
日
ひ
までは、われ
葡萄
ぶだう
の
果
み
より
成
な
るものを
飮
の
まじ』
26
かれら
讃美
さんび
をうたひて
後
のち
、オリブ
山
やま
に
出
い
でゆく。
27
イエス
弟子
でし
たちに
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
皆
みな
躓
つまづ
かん、それは「われ
牧羊者
ひつじかひ
を
打
う
たん、
然
さ
らば
羊
ひつじ
、
散
ち
るべし」と
錄
しる
されたるなり。
28
然
さ
れど
我
われ
よみがへりて
後
のち
、なんぢらに
先
さき
だちてガリラヤに
徃
ゆ
かん』
29
時
とき
にペテロ、イエスに
言
い
ふ『
假令
たとへ
みな
躓
つまづ
くとも
我
われ
は
然
しか
らじ』
30
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『まことに
汝
なんぢ
に
吿
つ
ぐ、
今日
けふ
この
夜
よ
、
鷄
にはとり
ふたたび
鳴
な
く
前󠄃
まへ
に、なんぢ
三
み
たび
我
われ
を
否
いな
むべし』
31
ペテロ
力
ちから
をこめて
言
い
ふ『われ
汝
なんぢ
とともに
死
し
ぬべき
事
こと
ありとも
汝
なんぢ
を
否
いな
まず』
弟子
でし
たち
皆
みな
かく
言
い
へり。
〘73㌻〙
32
彼
かれ
らゲツセマネと
名
な
づくる
處
ところ
に
到
いた
りし
時
とき
、イエス
弟子
でし
たちに
言
い
ひ
給
たま
ふ『わが
祈
いの
る
間
あひだ
、ここに
座
ざ
せよ』
33
斯
かく
てペテロ、ヤコブ、ヨハネを
伴󠄃
ともな
ひゆき、
甚
いた
く
驚
をどろ
き、かつ
悲
かな
しみ
出
い
でて
言
い
ひ
給
たま
ふ
34
『わが
心
こゝろ
いたく
憂
うれ
ひて
死
し
ぬばかりなり、
汝
なんぢ
ら
此處
ここ
に
留
とゞま
りて
目
め
を
覺
さま
しをれ』
100㌻
35
少
すこ
し
進󠄃
すゝ
みゆきて、
地
ち
に
平󠄃伏
ひれふ
し、
若
も
しも
得
う
べくば
此
こ
の
時
とき
の
己
おのれ
より
過󠄃
す
ぎ
徃
ゆ
かんことを
祈
いの
りて
言
い
ひ
給
たま
ふ
36
『《[*]》アバ
父󠄃
ちち
よ、
父󠄃
ちち
には
能
あた
はぬ
事
こと
なし、
此
こ
の
酒杯
さかづき
を
我
われ
より
取
と
り
去
さ
り
給
たま
へ。されど
我
わ
が
意󠄃
こゝろ
のままを
成
な
さんとにあらず、
御意󠄃
みこゝろ
のままを
成
な
し
給
たま
へ』[*「父󠄃」の義なり。]
37
來
きた
りて、その
眠
ねむ
れるを
見
み
、ペテロに
言
い
ひ
給
たま
ふ『シモンよ、なんぢ
眠
ねむ
るか、
一
いち
時
とき
も
目
め
を
覺
さま
しをること
能
あた
はぬか。
38
なんぢら
誘惑
まどはし
に
陷
おちい
らぬやう
目
め
を
覺
さま
し、かつ
祈
いの
れ。
實
げ
に
心
こゝろ
は
熱
ねつ
すれども
肉體
にくたい
よわきなり』
39
再
ふたゝ
びゆき、
同
おな
じ
言
ことば
にて
祈
いの
り
給
たま
ふ。
40
また
來
きた
りて
彼
かれ
らの
眠
ねむ
れるを
見
み
たまふ、
是
これ
その
目
め
、いたく
疲
つか
れたるなり、
彼
かれ
ら
何
なに
と
答
こた
ふべきかを
知
し
らざりき。
41
三度
みたび
來
きた
りて
言
い
ひたまふ『
今
いま
は
眠
ねむ
りて
休
やす
め、
足
た
れり、
時
とき
きたれり、
視
み
よ、
人
ひと
の
子
こ
は
罪人
つみびと
らの
手
て
に
付
わた
さるるなり。
42
起󠄃
た
て、われらは
徃
ゆ
くべし。
視
み
よ、
我
われ
を
賣
う
る
者
もの
ちかづけり』
43
なほ
語
かた
りゐ
給
たま
ふほどに、
十二
じふに
弟子
でし
の
一人
ひとり
なるユダ、やがて
近󠄃
ちか
づき
來
きた
る、
祭司長
さいしちゃう
・
學者
がくしゃ
・
長老
ちゃうらう
らより
遣󠄃
つかは
されたる
群衆
ぐんじゅう
、
劍
つるぎ
と
棒
ぼう
とを
持
も
ちて
之
これ
に
伴󠄃
ともな
ふ。
44
イエスを
賣
う
るもの、
預
あらか
じめ
合圖
あひづ
を
示
しめ
して
言
い
ふ『わが
接吻
くちつけ
する
者
もの
はそれなり、
之
これ
を
捕
とら
へて
確
しか
と
引
ひ
きゆけ』
45
斯
かく
て
來
きた
りて
直
たゞ
ちに
御許
みもと
に
徃
ゆ
き《[*]》『ラビ』と
言
い
ひて
接吻
くちつけ
したれば、[*「師」の義なり。]
46
人々
ひとびと
イエスに
手
て
をかけて
捕
とら
ふ。
47
傍
かたは
らに
立
た
つ
者
もの
のひとり、
劍
つるぎ
を
拔
ぬ
き、
大
だい
祭司
さいし
の
僕
しもべ
を
擊
う
ちて、
耳
みゝ
を
切
き
り
落
おと
せり。
48
イエス
人々
ひとびと
に
對
むか
ひて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢら
强盜
がうたう
にむかふ
如
ごと
く
劍
つるぎ
と
棒
ぼう
とを
持
も
ち、
我
われ
を
捕
とら
へんとて
出
い
で
來
きた
るか。
49
我
われ
は
日々
ひゞ
なんぢらと
偕
とも
に
宮
みや
にありて
敎
をし
へたりしに、
我
われ
を
執
とら
へざりき、
然
さ
れど
是
これ
は
聖󠄄書
せいしょ
の
言
ことば
の
成就
じゃうじゅ
せん
爲
ため
なり』
50
其
そ
のとき
弟子
でし
みなイエスを
棄
す
てて
逃󠄄
に
げ
去
さ
る。
101㌻
51
ある
若者
わかもの
、
素肌
すはだ
に
亞麻󠄃
あま
布
ぬの
を
纒
まと
ひて、イエスに
從
したが
ひたりしに、
人々
ひとびと
これを
捕
とら
へければ、
52
亞麻󠄃
あま
布
ぬの
を
棄
す
て
裸
はだか
にて
逃󠄄
に
げ
去
さ
れり。
53
人々
ひとびと
イエスを
大
だい
祭司
さいし
の
許
もと
に
曵
ひ
き
徃
ゆ
きたれば、
祭司長
さいしちゃう
・
長老
ちゃうらう
・
學者
がくしゃ
ら
皆
みな
あつまる。
54
ペテロ
遠󠄄
とほ
く
離
はな
れてイエスに
從
したが
ひ、
大
だい
祭司
さいし
の
中庭
なかには
まで
入
い
り、
下役
したやく
どもと
共
とも
に
坐
ざ
して
火
ひ
に
煖
あたゝ
まりゐたり。
55
さて
祭司長
さいしちゃう
ら
及
およ
び
全󠄃
ぜん
議會
ぎくわい
、イエスを
死
し
に
定
さだ
めんとて、
證據
しょうこ
を
求
もと
むれども
得
え
ず。
〘74㌻〙
56
夫
それ
はイエスに
對
たい
して
僞證
ぎしょう
する
者
もの
、
多
おほ
くあれども
其
そ
の
證據
しょうこ
あはざりしなり。
57
遂󠄅
つひ
に
或
ある
者
もの
ども
起󠄃
た
ちて
僞證
ぎしょう
して
言
い
ふ
58
『われら
此
こ
の
人
ひと
の「われは
手
て
にて
造󠄃
つく
りたる
此
こ
の
宮
みや
を
毀
こぼ
ち、
手
て
にて
造󠄃
つく
らぬ
他
ほか
の
宮
みや
を
三日
みっか
にて
建
た
つべし」と
云
い
へるを
聞
き
けり』
59
然
さ
れど
尙
なほ
この
證據
しょうこ
もあはざりき。
60
爰
こゝ
に
大
だい
祭司
さいし
、
中
なか
に
立
た
ちイエスに
問
と
ひて
言
い
ふ『なんぢ
何
なに
をも
答
こた
へぬか、
此
こ
の
人々
ひとびと
の
立
た
つる
證據
しょうこ
は
如何
いか
に』
61
然
さ
れどイエス
默
もだ
して
何
なに
をも
答
こた
へ
給
たま
はず。
大
だい
祭司
さいし
ふたたび
問
と
ひて
言
い
ふ『なんぢは
頌
ほ
むべきものの
子
こ
キリストなるか』
62
イエス
言
い
ひ
給
たま
ふ『われは
夫
それ
なり、
汝
なんぢ
ら
人
ひと
の
子
こ
の、
全󠄃能者
ぜんのうしゃ
の
右
みぎ
に
坐
ざ
し、
天
てん
の
雲
くも
の
中
うち
にありて
來
きた
るを
見
み
ん』
63
此
こ
のとき
大
だい
祭司
さいし
おのが
衣
ころも
を
裂
さ
きて
言
い
ふ『なんぞ
他
ほか
に
證人
しゃうにん
を
求
もと
めん。
64
なんぢら
此
こ
の
瀆言
けがしごと
を
聞
き
けり、
如何
いか
に
思
おも
ふか』かれら
擧
こぞ
りてイエスを
死
し
に
當
あた
るべきものと
定
さだ
む。
65
而
しか
して
或
ある
者
もの
どもはイエスに
唾
つばき
し、
又󠄂
また
その
顏
かほ
を
蔽
おほ
ひ、
拳
こぶし
にて
搏
う
ちなど
爲始
しはじ
めて
言
い
ふ、『
預言
よげん
せよ』
下役
したやく
どもイエスを
受
う
け、
手掌
てのひら
にてうてり。
66
ペテロ
下
した
にて
中庭
なかには
にをりしに、
大
だい
祭司
さいし
の
婢女
はしため
の
一人
ひとり
きたりて、
67
ペテロの
火
ひ
に
煖
あたゝ
まりをるを
見
み
、これに
目
め
を
注
と
めて『なんぢも、かのナザレ
人
びと
イエスと
偕
とも
に
居
ゐ
たり』と
言
い
ふ。
68
ペテロ
肯
うけが
はずして『われは
汝
なんぢ
の
言
い
ふことを
知
し
らず、
又󠄂
また
その
意󠄃
こゝろ
をも
悟
さと
らず』と
言
い
ひて
庭
には
口
ぐち
に
出
い
でたり。《[*]》[*異本六八節の末に「時に鷄なきぬ」といふ句あり。]
102㌻
69
婢女
はしため
かれを
見
み
て、また
傍
かたは
らに
立
た
つ
者
もの
どもに『この
人
ひと
は、かの
黨與
ともがら
なり』と
言
い
ひ
出
い
でしに、
70
ペテロ
重
かさ
ねて
肯
うけが
はず、
暫
しばら
くしてまた
傍
かたは
らに
立
た
つ
者
もの
どもペテロに
言
い
ふ『なんぢは
慥
たしか
に、かの
黨與
ともがら
なり、
汝
なんぢ
もガリラヤ
人
びと
なり』
71
此
こ
の
時
とき
ペテロ
盟
うけ
ひ、かつ
誓
ちか
ひて『われは
汝
なんぢ
らの
言
い
ふ
其
そ
の
人
ひと
を
知
し
らず』と
言
い
ひ
出
い
づ。
72
その
折
をり
しも、また
鷄
にはとり
なきぬ。ペテロ『にはとり
二度
ふたゝび
なく
前󠄃
まへ
に、なんぢ
三度
みたび
われを
否
いな
まん』とイエスの
言
い
ひ
給
たま
ひし
御言
みことば
を
思
おも
ひいだし、
思
おも
ひ
反
かへ
して
泣
な
きたり。
第15章
1
夜
よ
明
あく
るや
直
たゞ
ちに、
祭司長
さいしちゃう
・
長老
ちゃうらう
・
學者
がくしゃ
ら、
即
すなは
ち
全󠄃
ぜん
議會
ぎくわい
ともに
相
あひ
議
はか
りて、イエスを
縛
しば
り
曵
ひ
きゆきて、ピラトに
付
わた
す。
2
ピラト、イエスに
問
と
ひて
言
い
ふ『なんぢはユダヤ
人
びと
の
王
わう
なるか』
答
こた
へて
言
い
ひ
給
たま
ふ『なんぢの
言
い
ふが
如
ごと
し』
3
祭司長
さいしちゃう
ら、さまざまに
訴
うった
ふれば、
4
ピラトまた
問
と
ひて
言
い
ふ『なにも
答
こた
へぬか、
視
み
よ、
如何
いか
に《[*]》
多
おほ
くの
事
こと
をもて
訴
うった
ふるか』[*或は「重大なる事」と譯す。]
〘75㌻〙
5
されどピラトの
怪
あや
しむばかりイエス
更
さら
に
何
なに
をも
答
こた
へ
給
たま
はず。
6
さて
祭
まつり
の
時
とき
には、ピラト
民
たみ
の
願
ねがひ
に
任
まか
せて、
囚人
めしうど
ひとりを
赦
ゆる
す
例
れい
なるが、
7
爰
こゝ
に
一揆
いっき
を
起󠄃
おこ
し、
人
ひと
を
殺
ころ
して
繋
つな
がれをる
者
もの
の
中
うち
に、バラバといふ
者
もの
あり。
8
群衆
ぐんじゅう
すすみ
來
きた
りて、
例
れい
の
如
ごと
くせんことを
願
ねが
ひ
出
い
でたれば、
9
ピラト
答
こた
へて
言
い
ふ『ユダヤ
人
びと
の
王
わう
を
赦
ゆる
さんことを
願
ねが
ふか』
10
これピラト、
祭司長
さいしちゃう
らのイエスを
付
わた
ししは、
嫉
ねたみ
に
因
よ
ると
知
し
る
故
ゆゑ
なり。
11
然
さ
れど
祭司長
さいしちゃう
ら
群衆
ぐんじゅう
を
唆
そゝの
かし、
反
かへ
つてバラバを
赦
ゆる
さんことを
願
ねが
はしむ。
12
ピラトまた
答
こた
へて
言
い
ふ『さらば
汝
なんぢ
らがユダヤ
人
びと
の
王
わう
と
稱
とな
ふる
者
もの
をわれ
如何
いか
に
爲
す
べきか』
13
人々
ひとびと
また
叫
さけ
びて
言
い
ふ『
十字架
じふじか
につけよ』
14
ピラト
言
い
ふ『そも
彼
かれ
は
何
なに
の
惡事
あくじ
を
爲
な
したるか』かれら
烈
はげ
しく
叫
さけ
びて『
十字架
じふじか
につけよ』と
言
い
ふ。
15
ピラト
群衆
ぐんじゅう
の
望󠄇
のぞみ
を
滿
みた
さんとて、バラバを
釋
ゆる
し、イエスを
鞭
むちう
ちたるのち、
十字架
じふじか
につくる
爲
ため
にわたせり。
103㌻
16
兵卒
へいそつ
どもイエスを
官邸
くわんてい
の
中庭
なかには
に
連
つ
れゆき、
全󠄃
ぜん
隊
たい
を
呼
よ
び
集
あつ
めて、
17
彼
かれ
に
紫色
むらさき
の
衣
ころも
を
著
き
せ、
茨
いばら
の
冠冕
かんむり
を
編
あ
みて
冠
かむ
らせ、
18
『ユダヤ
人
びと
の
王
わう
、
安
やす
かれ』と
禮
れい
をなし
始
はじ
め、
19
また
葦
あし
にて、
其
そ
の
首
かうべ
をたたき、
唾
つばき
し、
跪
ひざま
づきて
拜
はい
せり。
20
かく
嘲弄
てうろう
してのち、
紫色
むらさき
の
衣
ころも
を
剝
は
ぎ、
故
もと
の
衣
ころも
を
著
き
せ
十字架
じふじか
につけんとて
曵
ひ
き
出
いだ
せり。
21
時
とき
にアレキサンデルとルポスとの
父󠄃
ちち
シモンといふクレネ
人
びと
、
田舍
ゐなか
より
來
きた
りて
通󠄃
とほ
りかかりしに、
强
し
ひてイエスの
十字架
じふじか
を
負󠄅
お
はせ、
22
イエスをゴルゴタ、
釋
と
けば
髑髏
されかうべ
といふ
處
ところ
に
連
つ
れ
徃
ゆ
けり。
23
斯
かく
て
沒藥
もつやく
を
混
ま
ぜたる
葡萄酒
ぶだうしゅ
を
與
あた
へたれど、
受
う
け
給
たま
はず。
24
彼
かれ
らイエスを
十字架
じふじか
につけ、
而
しか
して
誰
たれ
が
何
なに
を
取
と
るべきと、
䰗
くじ
を
引
ひ
きて
其
そ
の
衣
ころも
を
分󠄃
わか
つ、
25
イエスを
十字架
じふじか
につけしは、
朝󠄃
あさ
の
九時
くじ
頃
ごろ
なりき。
26
その
罪標
すてふだ
には『ユダヤ
人
びと
の
王
わう
』と
書
しる
せり。
27
イエスと
共
とも
に、
二人
ふたり
の
强盜
がうたう
を
十字架
じふじか
につけ、
一人
ひとり
をその
右
みぎ
に、
一人
ひとり
をその
左
ひだり
に
置
お
く。
28
[なし]《[*]》[*異本「彼は罪人と共に數へられたりといへる聖󠄄書は成就したり」とあり。]
29
徃來
ゆきき
の
者
もの
どもイエスを
譏
そし
り、
首
かうべ
を
振
ふ
りて
言
い
ふ『ああ
宮
みや
を
毀
こぼ
ちて
三日
みっか
のうちに
建
た
つる
者
もの
よ、
30
十字架
じふじか
より
下
お
りて
己
おのれ
を
救
すく
へ』
31
祭司長
さいしちゃう
らも
亦
また
同
おな
じく
學者
がくしゃ
らと
共
とも
に
嘲弄
てうろう
して
互
たがひ
に
言
い
ふ『
人
ひと
を
救
すく
ひて、
己
おのれ
を
救
すく
ふこと
能
あた
はず、
32
イスラエルの
王
わう
キリスト、いま
十字架
じふじか
より
下
お
りよかし、
然
さ
らば
我
われ
ら
見
み
て
信
しん
ぜん』
共
とも
に
十字架
じふじか
につけられたる
者
もの
どもも、イエスを
罵
のゝし
りたり。
33
晝
ひる
の
十二
じふに
時
じ
に、
地
ち
のうへ
徧
あまね
く
暗󠄃
くら
くなりて、
三時
さんじ
に
及
およ
ぶ。
〘76㌻〙
34
三時
さんじ
にイエス
大聲
おほごゑ
に『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ』と
呼
よば
はり
給
たま
ふ。
之
これ
を
釋
と
けば、わが
神
かみ
、わが
神
かみ
、なんぞ
我
われ
を
見
み
棄
す
て
給
たま
ひし、との
意󠄃
こゝろ
なり。
35
傍
かたは
らに
立
た
つ
者
もの
のうち
或
あ
る
人々
ひとびと
これを
聞
き
きて
言
い
ふ『
視
み
よ、エリヤを
呼
よ
ぶなり』
36
一人
ひとり
はしり
徃
ゆ
きて、
海綿
うみわた
に
酸
す
き
葡萄酒
ぶだうしゅ
を
含
ふく
ませて
葦
あし
につけ、イエスに
飮
の
ましめて
言
い
ふ『
待
ま
て、エリヤ
來
きた
りて、
彼
かれ
を
下
おろ
すや
否
いな
や、
我
われ
ら
之
これ
を
見
み
ん』
104㌻
37
イエス
大聲
おほごゑ
を
出
いだ
して
息
いき
絕
た
え
給
たま
ふ。
38
聖󠄄所󠄃
せいじょ
の
幕
まく
、
上
うへ
より
下
した
まで
裂
さ
けて
二
ふた
つとなりたり。
39
イエスに
向
むか
ひて
立
た
てる
百卒長
ひゃくそつちゃう
、かかる
樣
さま
にて
息
いき
絕
た
え
給
たま
ひしを
見
み
て
言
い
ふ『
實
げ
にこの
人
ひと
は
神
かみ
の
子
こ
なりき』
40
また
遙
はるか
に
望󠄇
のぞ
み
居
ゐ
たる
女
をんな
等
たち
あり、その
中
なか
にはマグダラのマリヤ、
小
せう
ヤコブとヨセとの
母
はは
マリヤ
及
およ
びサロメなども
居
ゐ
たり。
41
彼
かれ
らはイエスのガリラヤに
居給
ゐたま
ひしとき、
從
したが
ひ
事
つか
へし
者
もの
どもなり。
此
こ
の
他
ほか
イエスと
共
とも
にエルサレムに
上
のぼ
りし
多
おほ
くの
女
をんな
もありき。
42
日
ひ
旣
すで
に
暮
く
れて、
準備
そなへ
日
び
、
即
すなは
ち
安息
あんそく
日
にち
の
前󠄃
まへ
の
日
ひ
となりたれば、
43
貴
たふと
き
議員
ぎゐん
にして、
神
かみ
の
國
くに
を
待
ま
ち
望󠄇
のぞ
める、アリマタヤのヨセフ
來
きた
りて、
憚
はゞか
らずピラトの
許
もと
に
徃
ゆ
き、イエスの
屍體
しかばね
を
乞
こ
ふ。
44
ピラト、イエスは
早
は
や
死
し
にしかと
訝
いぶか
り、
百卒長
ひゃくそつちゃう
を
呼
よ
びて、その
死
し
にしより
時
とき
經
へ
しや
否
いな
やを
問
と
ひ、
45
旣
すで
に
死
し
にたる
事
こと
を
百卒長
ひゃくそつちゃう
より
聞
き
き
知
し
りて、
屍體
しかばね
をヨセフに
與
あた
ふ。
46
ヨセフ
亞麻󠄃
あま
布
ぬの
を
買
か
ひ、イエスを
取下
とりおろ
して
之
これ
に
包
つゝ
み、
岩
いは
に
鑿
ほ
りたる
墓
はか
に
納󠄃
をさ
め、
墓
はか
の
入口
いりくち
に
石
いし
を
轉
まろば
し
置
お
く。
47
マグダラのマリヤとヨセの
母
はは
マリヤとイエスを
納󠄃
をさ
めし
處
ところ
を
見
み
ゐたり。
第16章
1
安息
あんそく
日
にち
終󠄃
をは
りし
時
とき
、マグダラのマリヤ、ヤコブの
母
はは
マリヤ
及
およ
びサロメ
徃
ゆ
きて、イエスに
抹
ぬ
らんとて
香料
かうれう
を
買
か
ひ、
2
一週󠄃
ひとまはり
の
首
はじめ
の
日
ひ
、
日
ひ
の
出
い
でたる
頃
ころ
いと
早
はや
く
墓
はか
にゆく。
3
誰
たれ
か
我
われ
らの
爲
ため
に
墓
はか
の
入口
いりくち
より
石
いし
を
轉
まろば
すべきと
語
かた
り
合
あ
ひしに、
4
目
め
を
擧
あ
ぐれば、
石
いし
の
旣
すで
に
轉
まろば
しあるを
見
み
る。この
石
いし
は
甚
はなは
だ
大
おほい
なりき。
5
墓
はか
に
入
い
り、
右
みぎ
の
方
かた
に
白
しろ
き
衣
ころも
を
著
き
たる
若者
わかもの
の
坐
ざ
するを
見
み
て
甚
いた
く
驚
をどろ
く。
6
若者
わかもの
いふ『おどろくな、
汝
なんぢ
らは
十字架
じふじか
につけられ
給
たま
ひしナザレのイエスを
尋󠄃
たづ
ぬれど、
旣
すで
に
甦
よみが
へりて、
此處
ここ
に
在
いま
さず。
視
み
よ、
納󠄃
をさ
めし
處
ところ
は
此處
ここ
なり。
105㌻
7
然
さ
れど
徃
ゆ
きて、
弟子
でし
たちとペテロとに
吿
つ
げよ「
汝
なんぢ
らに
先
さき
だちてガリラヤに
徃
ゆ
き
給
たま
ふ、
彼處
かしこ
にて
謁
まみ
ゆるを
得
え
ん、
曾
かつ
て
汝
なんぢ
らに
言
い
ひ
給
たま
ひしが
如
ごと
し」』
〘77㌻〙
8
女
をんな
等
たち
いたく
驚
をどろ
きをののき、
墓
はか
より
逃󠄄
にげ
出
い
でしが、
懼
おそ
れたれば
一言
ひとこと
をも
人
ひと
に
語
かた
らざりき。
9
[*異本九節以下を缺く。]〔
一週󠄃
ひとまはり
の
首
はじめ
の
日
ひ
の
拂曉
あかつき
、イエス
甦
よみが
へりて
先
ま
づマグダラのマリヤに
現
あらは
れたまふ、
前󠄃
さき
にイエスが
七
なゝ
つの
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひいだし
給
たま
ひし
女
をんな
なり。
10
マリヤ
徃
ゆ
きて、イエスと
偕
とも
にありし
人々
ひとびと
の、
泣
な
き
悲
かな
しみ
居
を
るときに
之
これ
を
吿
つ
ぐ。
11
彼
かれ
らイエスの
活
い
き
給
たま
へる
事
こと
と、マリヤに
見
み
え
給
たま
ひし
事
こと
とを
聞
き
けども
信
しん
ぜざりき。
12
此
こ
の
後
のち
その
中
うち
の
二人
ふたり
、
田舍
ゐなか
に
徃
ゆ
く
途󠄃
みち
を
步
あゆ
むほどに、イエス
異
ことな
りたる
姿
すがた
にて
現
あらは
れ
給
たま
ふ。
13
此
こ
の
二人
ふたり
ゆきて、
他
ほか
の
弟子
でし
たちに
之
これ
を
吿
つ
げたれど、なほ
信
しん
ぜざりき。
14
其
そ
ののち
十
じふ
一
いち
弟子
でし
の
食󠄃
しょく
しをる
時
とき
に、イエス
現
あらは
れて、
己
おの
が
甦
よみが
へりたるを
見
み
し
者
もの
どもの
言
ことば
を
信
しん
ぜざりしにより、
其
そ
の
信仰
しんかう
なきと、
其
そ
の
心
こゝろ
の
頑固
かたくな
なるとを
責
せ
め
給
たま
ふ。
15
斯
かく
て
彼
かれ
らに
言
い
ひたまふ『
全󠄃世界
ぜんせかい
を
巡󠄃
めぐ
りて
凡
すべ
ての
造󠄃
つく
られしものに
福音󠄃
ふくいん
を
宣傳
のべつた
へよ。
16
信
しん
じてバプテスマを
受
う
くる
者
もの
は
救
すく
はるべし、
然
さ
れど
信
しん
ぜぬ
者
もの
は
罪
つみ
に
定
さだ
めらるべし。
17
信
しん
ずる
者
もの
には
此
これ
等
ら
の
徴
しるし
、ともなはん。
即
すなは
ち
我
わ
が
名
な
によりて
惡鬼
あくき
を
逐󠄃
お
ひいだし、
新
あたら
しき
言
ことば
をかたり、
18
蛇
へび
を
握
にぎ
るとも、
毒
どく
を
飮
の
むとも、
害󠄅
がい
を
受
う
けず、
病
や
める
者
もの
に
手
て
をつけなば
癒󠄄
い
えん』
106㌻
19
語
かた
り
終󠄃
を
へてのち、
主
しゅ
イエスは
天
てん
に
擧
あ
げられ、
神
かみ
の
右
みぎ
に
坐
ざ
し
給
たま
ふ。
20
弟子
でし
たち
出
い
でて、
徧
あまね
く
福音󠄃
ふくいん
を
宣傳
のべつた
へ、
主
しゅ
も
亦
また
ともに
働
はたら
き、
伴󠄃
ともな
ふところの
徴
しるし
をもて、
御言
みことば
を
確
かた
うし
給
たま
へり〕
〘78㌻〙
107㌻